高齢化に伴い、配偶者を介護する夫婦が増えています。介護が必要になるときは、突然やってくるものです。もし自身が介護される立場になった場合、配偶者との関係性が変わってしまうかもしれません。なかには、身体が不自由な状態のまま離婚されてしまうケースもあって……。本記事では宮本さん(仮名)の事例とともに介護疲れによる熟年離婚について、行政書士の露木幸彦氏が解説します。
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入浴・オムツ拒否の夫に妻「もう面倒見ない!」
「家内は僕への不満をブログに書いたりするし、根暗で陰湿な性格が嫌でした」
裕さんの財布から万札を抜き取ったり、書斎から実印がなくなって作り直したり……裕さんは妻の仕業だろうと気付きながら、なにも言わなかったそうです。そして娘さんが中学に入ると会話はなくなり、娘さんを通しての話だけになったとのこと。
「家内には言えませんが、不倫をしたこともあります。でも、娘を大学まで行かせたし、なんだかんだ言って『普通の家庭』だと思っていました」と口にしますが、残念ながら、妻はそう思っていなかったのでしょう。
そんな「普通の家庭」が壊れるきっかけは突然、やってきました。裕さんが仕事中、急に倒れたのです。多発性脳梗塞後遺症と診断され、なんとか一命を取りとめたものの、両手、両足に麻痺が残るほどの重病でした。そのため、車椅子で移動しなければならず、食事や身の回りのことは介助が必要なので要介護度3と認定されたのです。
前述の統計によると介護が必要になった主な原因の1位は認知症、2位は脳血管疾患、そして3位は骨折、転倒です。
裕さんはいままで当たり前にできたことが当たり前ではなくなり、そのたびにストレスをため込んでいました。まさかシモの世話を妻にやってもらうなんて思ってもみませんでした。
たとえば、妻は毎朝、裕さんを風呂に入れてくれたのですが、裕さんは素直になれず、「風呂なんて入らなくても死なねーよ!」とダダをこねてしまったのです。妻はただでさえ忙しいのに裕さんを説得して入浴を促すまで小1時間を要することに。
しかも、裕さんは毎晩のように粗相をし、異臭を放っていたので入浴の介助もかなりの苦痛だったのでしょう。そのため、妻は紙オムツを用意しておいたのですが、裕さんは「ばかにするんじゃねー!」と激怒。オムツをつけることに協力しなかったそう。
結局、妻は尿が染み付いた布団を毎週1,2回は大型のコインランドリーに行かざるをえず、妻の心身はますます疲弊していったのです。
離婚を切り出したら…夫、ブチギレ
「もう、あんたの面倒はみない! 離婚って意味よ!!」と妻はついに堪忍袋の緒が切れてしまいました。裕さんはどのように反応したのでしょうか?
「夫婦はお互いに助け合う義務があるのにどういうことなんだ! 面倒をみないなら夫婦である必要があるのか?」と食ってかかったのです。さらに「手足の麻痺で営みができないから、お前と結婚していても意味がない!」と畳みかけたそう。
こうして売り言葉に買い言葉の応酬が何ヵ月も続いたのですが、最終的には裕さんが「紙切れ一枚で俺を縛り付けるな! お前といる意味がない!!」と捨て台詞を吐き、ようやく離婚届に署名したのです。
とはいえ介護が必要な裕さんを誰が面倒をみるのでしょうか? 妻は裕さんの実家を訪ね、両親に頼みに行ったそう。裕さんがリハビリをサボり気味なので社会復帰できる見通しが立たないのですが、そのことをあえて隠しました。そうすると両親は後遺症が回復するまで一時的に預かるだけ。そう軽んじたようで、あっさりと快諾。
そして夫婦には29歳の娘がいるのですが、すでに結婚して家庭を持っているので心配はありません。このように妻は離婚に向けて、家族の問題を次々と解決していったのですが、妻の復讐は離婚だけでは終わりませんでした。