動けない夫を尻目に…保険金と退職金の2,000万円と持ち家ゲット

まず夫婦の持ち家は築20年で残りの住宅ローンは1,000万円。住宅ローンを組む場合、団体信用生命保険(途中で債務者が亡くなった場合、住宅ローン残額と同額の保険金が支給され、優先的に住宅ローンに充当される保険)の加入は必須ですが、今回の場合、三大疾病保障特約を付与していました。これは死亡だけでなく三大疾病を発症した場合も保障されるという意味です。そのため、妻は住宅ローンがなくなった持ち家で離婚後、無償で住み続けることができました。

そして裕さんは被保険者、受取人が夫という高度障害保険金に加入していました。これは癌、脳梗塞、心筋梗塞などの三大疾病を発症した場合に支給されるタイプで今回の場合は一時金で1,200万円でした。

ところで今回のように病気の後遺症等で本人(契約者)は保険請求の手続を行うことが難しい場合、「指定請求代理人」が代わりに行うことが可能です。

裕さんの保険では、どちらの保険も妻になっていたので妻が申請したのです。しかし、保険金は妻が通帳等を管理している裕さん名義の口座へ入金させ、そして今度は妻の口座へ移し替えたようです。

また裕さんは後遺症により日常業務すら難しい状況なので65歳の定年を待たずに退職せざるを得なかったのですが、退職金(800万円)支給の手続のため自力で会社へ行くのも厳しいので妻に任せるしかありませんでした。妻はやはり同じ方法で一度は退職金を裕さんの口座に振り込ませ、そこから妻の口座へ移し替えたのです。

残ったのは「預貯金と厚生年金」のみ…年金は繰上げ受給でいますぐ受け取り開始

妻がこそこそと裏で動いていたことを裕さんが知ったのが後日のこと。筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっていますが、裕さんはそのことに激高し、筆者の事務所に電話をかけてきたのです。裕さんの手元に残った財産は預貯金と厚生年金のみです。

まず預貯金ですが、妻が管理していない口座に入っていた450万円は無事でした。次に厚生年金ですが、婚姻期間中に納めた厚生年金をわけ合う制度を年金分割といいます。もし、裕さんの年金が妻に分割された場合、裕さんの年金がいくら減り、妻の年金がいくら増えるのか。詳細な試算を年金事務所で発行してもらうことが可能です。

試算書のことを「年金分割のための情報提供書」といいますが、年金手帳と戸籍謄本を提示すれば無料で発行してくれます。手足が不自由な裕さんの代わりに筆者が申請をしましたが、仮に年金分割を行った場合、65歳から受け取る裕さんの年金は毎月4万円ほど減ることがわかりました。

しかし、年金分割を行うには裕さんが公正証書に署名捺印するか、裁判所を通して離婚しなければなりません。これらのことを行うことが難しいため、妻は断念したのでしょう。とはいえ裕さんはいますぐ年金が必要で、65歳まで待つことは難しいです。そのため、60歳から繰上げ受給をするので、毎月の金額は14万円となる予定です。