アメリカ独立革命の精神が飛び火して始まった「フランス革命」。国王処刑後、周辺国に攻め入られ、混乱するフランス国民の前に現れたのが、ナポレオンでした。立命館アジア太平洋大学(APU) 学長特命補佐である出口治明の著書『一気読み世界史』(日経BP)より、ナポレオンによってもたらされた、のちの近代国家の成立に欠かせないものとなる「ある概念」について、詳しく見ていきましょう。
〈フランス革命〉の混乱の最中に颯爽と登場!…救世主・ナポレオンがもたらした、近代国家の礎となる〈新しい概念〉とは【世界史】
新聞の大量発行で「ネーションステート(国民国家)」誕生
フランス革命の時代には、新聞やビラががんがん印刷されました。いろんな派閥が生まれて、それぞれが新聞を発行しては持論を主張したり、政敵を攻撃したりしました。
例えば、ナポレオンは新聞を使って、ジャンヌ・ダルクを「再発見」しました。「英仏百年戦争でフランスがまさに滅びようかとしていたとき、オルレアンの片田舎から一人の乙女が現れて、フランスを救ったことがあったよね」と新聞に書き立てます。
ナポレオンもコルシカの片田舎の出身なので、自分とジャンヌ・ダルクを重ねるのが狙いです。「片田舎から出てきた無名の乙女が、フランスを救った。フランス人がいざというときに頑張ったら、何だってできるんだ」と。
こうして「ネーションステート(国民国家)」が誕生しました。「フランス国民」という意識を共有する人たちから成る「フランス国家」という概念が初めて生まれたということです。
それまでは、誰も自分のことを「フランス国民」とは思っていませんでした。自分はオルレアンの生まれだとか、自分はブルゴーニュ人だとか、プロヴァンス人だと思っていたのです。しかも「フランス国民」は王様に支配されるわけでなく、自由で平等、友愛で結ばれています。こんなことを考えた人たちはいまだかつていませんでした。
ナポレオンは新聞を使って「フランス国民」に呼びかけます。「フランス国民よ、立ち上がれ」と、煽りまくります。するとフランスの人々は「そうか、大変な危機にある今こそ、我々はフランス人として立ち上がらないといけないんだな。オルレアンの乙女やコルシカの青年のように」と思うわけです。
これによってフランス軍は強くなりました。「俺たちはフランス国民だ」「フランスを守ろう」という気持ちで、強くなったのです。これが国民国家です。
フランスに攻め入った君主国の軍隊は、お金で雇われた傭兵です。それを率いるのは王様で、要するに「王様の兵隊」です。でも、フランスは「国民の兵隊」です。この国民兵の力によって、やがてナポレオンはヨーロッパを席巻するのです。
近代国家は、連合王国の産業革命とフランス革命によってつくられました。それが、現在に至るまでの近代国家のベースになっています。日本は愚かな鎖国をしていたので、この2つの大きい流れに乗り遅れてしまいました。