「物忘れ」はだれにでも起こり、40代からすでに始まっています。そのような場合、「体験の細部」を忘れるパターンはあまり心配ありませんが、体験自体が抜け落ちるようだと、注意が必要です。※本連載は、医師・常喜眞理氏の著書『オトナ女子 あばれるカラダとのつきあい方』(すばる舎)より一部を抜粋・再編集したものです。
◆対策その1 体を動かすことが脳を活性化します
まず考えられるのが、運動神経細胞の活発化です。要するに運動すること。
しかし運動といっても、走ったり、飛んだりするだけではありません。喋ったり、歌ったり、あるいは料理も立派な運動です。
たとえば認知症対策としてカラオケがよく言われます。歌詞を目で見て確認し、リズムや伴奏を耳で聞き、それらがぴったりフィットするタイミング・音程で声を出す。五感、視床下部、そして大脳や他の器官とが、複雑に連携するのが“カラオケで歌う”という行為なのです。
しかも歌うことは、たいていの人にとって楽しいことではないでしょうか。仲間と一緒であればなおさらです。
この“楽しさ”が重要なポイントで、黙々と歩くのが楽しい方はウォーキングでもいいのですが、そうでなければ長続きしません。
料理であれば、必要な材料を決めて買い物に行き、段取りを考えながら、切ったり焼いたり炒めたり。
ときどきは味見も必要です。そして、きれいに盛りつけて、誰かに振る舞う。非常に複雑かつクリエイティブな行為であり、料理好きには楽しい時間でもあります。
◆対策その2 心が動けば脳も動きます
物理的な運動だけでなく、情動面の活発化も、脳の健康とかかわりがあると言われています。情動、なかでも“喜び”を日々感じることが、大切ではないでしょうか。
人は自立をし、人の役に立つことが生きている喜びにつながるのだと思います。
しかし人の心は弱いものです。精神的にも肉体的にも自立したいが、実際には誰かに頼りたい、頼っているというのが現実です。
ならば、それを認識して言葉で表しましょう。家族や周囲の人に、1日1回は心から「ありがとう」と言いましょう。
そして何か人に役立つことをして、自分のことをこっそり褒めましょう。喜びはそうしたところに生まれると思います。
認知症になるとささいなことで怒りっぽくなる方がいますが、これは感情の制御が利かなくなって、寛容さを失っている状態です。情動もまた視床下部が司る部分であり、“喜び”はそのストレスを発散してくれるものだと思います。
さて、認知症対策として「体と心を動かす」ことを挙げましたが、この2つは認知症対策であると同時に、幸せな暮らし方にも通じます。
積極的に人や社会とかかわり、肉体面・精神面ともに自立を心がけながらも、周囲への感謝を忘れない。一見当たり前のようですが、これができない人が多いのも事実です。
1人暮らしの高齢者が増えていますが、あまり人にも会わず、買ってきたお弁当を1人で食べ、日がなテレビを眺めている‥‥‥これでは脳の活性化は望めません。
心身の喜びを大切にする心、人生への前向きな心こそ、最良の認知症対策と言えるでしょう。