加齢とともに「体の水分量」が減少すると…

夏になると話題になるもののひとつが「熱中症」です。高齢者が熱中症で救急搬送されたというニュース、耳にしたことがありますよね。

熱中症といっても経験のない方はピンとこないかもしれませんが、これがなかなか馬鹿にできません。暑くてぐったりするくらいならまだいいのですが、頭痛、めまい、こむら返りなどの症状が夏場に出たら、熱中症を意識してください。さらに症状が進むと、吐き気、嘔吐(おうと)、発熱でダウンということにもなりますし、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす場合もあります

昔は熱射病、脱水症などの呼び方もありましたが、いまでは「熱中症」と総称します。

かつて脱水症と呼ばれたとおり、熱中症は体内の水分が低下した結果、汗をかくなどの体温調節機能がうまく働かなくなり、熱が体内にこもってしまうものです。

実は私たちは、加齢とともに熱中症になりやすい体へと変化しています。

まず老化により、もともとの体内の水分量が減少します。細胞の保湿能力が低下し、指先がカサつきやすくなったり、皮膚の潤(うるお)いがなくなっているのを実感しますよね。

また、筋肉量が減少するので血流量も減り、そのぶん体の水分量が減っています。

さらに五感のコントロールを司る、脳の視床下部の機能が低下します。要するに若い頃よりも「暑さや渇き」を感じにくくなっています。

それゆえ、暑さを避けたり水分補給したりなどの対応策が遅れ、気づいたときには………となりがちなのです。

ちなみに平成29年の5月から9月のあいだに、熱中症により救急搬送された人は全国で5万2984人。その約半数が高齢者(65歳以上)でした(消防庁発表)。

自分の五感を過信していると手遅れに。室温計で確認を

予防方法は、もちろん早めの暑さ対策と水分補給です。

暑さ対策ですが、外出時の帽子、日傘は言うに及ばず、室内の過ごし方も注意が必要です。

「クーラーは嫌いだから使わない」という方がいらっしゃいますが、度がすぎるのは考えものです。毎年、多くの方が室内で熱中症になっています。

最近の住宅は密閉度が高いので、窓を開けたぐらいでは室温はそう下がりません。そして何しろ、歳とともに暑さを感じにくくなっているのですから!

自覚している以上に体温が上昇してしまう可能性があります。

自分の五感だけでなく室温計をチェックし、夜間も28度以下を保つように適切に冷房を利用しましょう。冷房がどうしても嫌いという場合は、寝室とは違う部屋にエアコンがあれば、そこから冷気をとるなど工夫してください。

「渇く」前に飲む

次に水分補給ですが、こちらも同様です。「渇き」を感じてからでは遅いので、早め早めの補給を心がけてください。夏は自分の五感よりも、量のチェックと回数で水分を確保したほうが安全です。

ではどれくらいの水分補給が必要なのでしょうか?

3食をきちんと食べると、1日に約1リットルの水分を食事から摂取していると言われます。このほかに、飲料水として約1.5リットルが目安です。

食事を1食抜いているのなら、さらに300~500ミリリットル多めに摂取することを心がけましょう。

お茶でもいいのですが、カフェインの入っているものはあまり飲みすぎないように。

飲むタイミングは、基本は起床時、各食事のとき、入浴前後、寝る前です。

実は室内で熱中症になって救急車で搬送されるケースでは、朝方が多くなっています。

睡眠中は水分補給ができないので、トイレに何度も起きたくないからといって、夜に極端に水分を控えるのは考えものです。夜間にトイレに立つことが多い方は、その際に2~3口水を飲みましょう。

なお1回に飲む量は200ミリリットル程度が適量。スポーツ時や外出時は汗をかきますので、上記に加えて30分に1回の水分補給をおすすめします。

塩分の補給も言われますが、通常は食事から塩分は摂れていますので、よっぽど激しいスポーツや労働でもしない限り不要でしょう。

自分や周囲の人間が熱中症になってしまった場合は、まず涼しくすることです。衣服を緩める、または脱がせる。濡らした布を体にかけ、扇風機などで風を送る。保冷剤などで、首や脇、太ももなど、大きな血管のある部分を冷やすのも有効です。可能ならもちろん水分補給を。

いくつになっても夏はアクティブに過ごしたいものですが、年齢とともに熱中症になりやすい体になっていることをお忘れなく。

常喜 眞理
家庭医、医学博士