高齢になるとだれしも骨折のリスクが上昇します。万一骨折すると、それが原因で寝たきりになってしまうかも…。骨を強く保つには、どんな注意点があるのでしょうか。※本連載は、医師・常喜眞理氏の著書『オトナ女子 あばれるカラダとのつきあい方』(すばる舎)より一部を抜粋・再編集したものです。
カルシウムの摂りすぎは逆効果
個々人の骨の強度は、思春期からの食習慣や運動などで決まるものですが、大人になってからの生活習慣によっても左右されます。いまからでも、「骨を守る生活習慣」を実践しましょう。
まずは低体重、肥満、そして喫煙、1日3合以上の飲酒は、いずれも大きな悪影響があるのですぐに改善しましょう。これらの要素は、他の多くの病気とも関連しています。
次に食生活ですが、骨といえばカルシウム。乳製品や魚介類、大豆製品、野菜・海藻類からバランスよく摂取することを心がけてください。
カルシウムの吸収率を高めるビタミンDも重要です。サバやイワシなどの青魚、シイタケなどに含まれています。
また、肌のためには紫外線対策は欠かせませんが、ビタミンDは日光に当たることでも活性化されますから、1日に15分程度は意識的に日光を浴びるようにしましょう。
そして摂取・吸収したカルシウムを骨に沈着させるには、ビタミンK2の働きも必要です。
こちらの成分は納豆、パセリ、しそなどに多く含まれます。
また、マグネシウムも骨には大切な成分。海藻やサプリでの摂取を心がけたいものです。
ちなみにカルシウム系のサプリメントをやたらと摂る方がいらっしゃいますが、カルシウムだけを過剰に摂取することは、かえって骨の破壊を進めます。くれぐれもほどほどに。そして、関連ビタミンの摂取もお忘れなく。
運動も大切です。
体を支えているのは骨だけではありません。骨と筋肉が一緒に機能しているわけですから、筋肉を維持することも、骨を守ることにつながります。
室内でできる簡単な運動で結構です。前述したスクワットに加えて、開眼片脚立ちなどを1日3分でもよいので続けましょう。
◆量だけでなく「骨質(こっしつ)」も大事なことがわかってきました
ここまで、主に骨密度=骨の量やカルシウムの重要性について述べてきましたが、実は最近では、骨の健康には量だけでなく骨の質、「骨質」も大事なことがわかってきました。この「骨質」を左右するのが、カルシウムとともに、骨のもうひとつの主成分であるコラーゲンです。
骨は重量のおよそ8割がカルシウムで、残りの2割がコラーゲンです。しかしその体積比は1対1。両者の役割と関係は、鉄筋コンクリート構造にたとえられます。
コラーゲンが鉄骨だとすると、カルシウムはコンクリートです。コンクリート部分が多少ボロボロになっても建物は大丈夫でしょう。しかし鉄骨部分が著しく劣化すると、コンクリートがたっぷり残っていても建物は倒壊します。
骨密度が高くても、つまり骨量が豊富にあっても、重量で2割にすぎないコラーゲン部分の劣化が、骨の強度を大きく左右するわけです。これが、重さでは測れない「骨質」です。
自分は骨密度が高いから大丈夫、と安心はできません。実際、骨密度が高いのに簡単に骨折してしまう例があります。
また、骨のコラーゲンの劣化=骨質の低下は単に加齢によるものではなく、内臓肥満や糖尿病など生活習慣病と関連していることもわかってきました。骨質は保険診療では測定できませんが、今後の研究の進展が注目されます。
さて、骨の老化は自覚症状もなく、静かに忍び寄るものです。外から見てもわかりません。
しかしそれを見過ごしていると、若い頃には考えられないような場面で骨折することが起こります。
私の知っている例では、ヨットに乗っていて、大きく揺れた衝撃で座ったまま腰椎を圧迫骨折した方がいらっしゃいました。ちょっとした尻もち、転倒でも同様です。
60歳からは、とにかく自分の骨量をきちんと把握することが大切。そして骨を守る生活習慣を心がけてください。
常喜 眞理
家庭医、医学博士