紫式部と藤原道長、2人の物語で話題を呼んでいる大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。歴史の教科書に載っている貴族たちも次々に登場し、権謀術数渦巻く貴族政治を繰り広げます。ドラマで吉高由里子さん演じる“まひろ”はのちの紫式部。彼女の遺した『紫式部日記』を紐解くと、道長の娘・彰子に仕えた宮中の日々が明らかになっていきます。本稿では、歴史研究家・歴史作家の河合敦氏による著書『平安の文豪』(ポプラ新書)から一部抜粋し、紫式部の生涯について解説します。
長編小説の最高峰
『源氏物語』は、平安貴族の宮廷生活における恋愛模様を描いた小説で、今から千年以上前に成立したとされる。全五十四帖(巻)の文字数はおよそ100万字、四百字詰の原稿用紙に換算すると、なんと約2,400枚にもおよぶ。
物語は「光源氏の誕生から栄華まで」、「光源氏の不幸な晩年」、「薫(表向きは光源氏の子)と孫の匂宮の話」の三部構成となっている。70年余にもわたる壮大なお話で、登場人物はなんと400人を超えるそうだ。その内容も秀逸で、我が国が生んだ長編小説の最高傑作と高く評価されてきた。
まずは『源氏物語』の冒頭(「第一帖 桐壺」)を紹介しよう。
中高生時代に学校で習うはずなので、記憶にある方も多いだろう。簡単に原文を意訳してみよう。
天皇(桐壺帝)に深く愛されたこの女性こそが、光源氏の生母・桐壺更衣である。ただ、彼女は光源氏が3歳のときに亡くなってしまう。やがて父帝は、桐壺更衣にそっくりな藤壺を女御として迎え、寵愛するようになる。だが光源氏も、母にそっくりな藤壺に惹かれ、強い恋心を抱くようになってしまう。
「光る君」と呼ばれ、イケメンに成長した光源氏は、多くの女性と恋愛を重ねつつも、藤壺への思いを断ちきれず、なんと彼女と情を通じてしまうのだ。父の女御なのに!
しかも不倫の結果、藤壺は光源氏の子を身ごもり、男児を出産する。その不貞に桐壺帝はまったく気がつかず、やがてその男児が東宮(皇太子)となり、11歳で即位して冷泉帝となってしまうのだ。
『源氏物語』とは、ビックリするくらいの昼メロ的なドロドロな話なのである。この後もスゴい内容が続いていくが、これ以上、『源氏物語』の内容を書き続けると、ページがなくなるので、とりあえずはこれくらいにして、作者・紫式部の紹介に移っていこう。