長編小説の最高峰

『源氏物語』は、平安貴族の宮廷生活における恋愛模様を描いた小説で、今から千年以上前に成立したとされる。全五十四帖(巻)の文字数はおよそ100万字、四百字詰の原稿用紙に換算すると、なんと約2,400枚にもおよぶ。

物語は「光源氏の誕生から栄華まで」、「光源氏の不幸な晩年」、「薫(表向きは光源氏の子)と孫の匂宮の話」の三部構成となっている。70年余にもわたる壮大なお話で、登場人物はなんと400人を超えるそうだ。その内容も秀逸で、我が国が生んだ長編小説の最高傑作と高く評価されてきた。

まずは『源氏物語』の冒頭(「第一帖 桐壺」)を紹介しよう。

「いづれの御時にか、女御、更衣あまた侍ひ給ひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。初めより我はと思ひ上がり給へる御方々、めざましきものにおとしめそねみ給ふ。同じほど、それより下げ﨟らふの更衣たちは、まして安からず。朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、恨みを負ふつもりにやありけむ、いとあつしくなりゆき、もの心細げに里がちなるを、いよいよ飽かずあはれなるものに思ほして、人のそしりをもえはばからせ給はず、世の例ためしにもなりぬべき御もてなしなり」

中高生時代に学校で習うはずなので、記憶にある方も多いだろう。簡単に原文を意訳してみよう。

「多くの女御や更衣が仕えている中で、それほど身分は高くないが、天皇からたいへん寵愛を受けている女性がいた。このため、天皇の寵を得たいと思っている他の妃たちからひどく嫉妬され、いじめられた。そのストレスからか病気がちになり、里帰りすることが多くなったが、それでも天皇は彼女を愛し、特別に遇し続けた」

天皇(桐壺帝)に深く愛されたこの女性こそが、光源氏の生母・桐壺更衣である。ただ、彼女は光源氏が3歳のときに亡くなってしまう。やがて父帝は、桐壺更衣にそっくりな藤壺を女御として迎え、寵愛するようになる。だが光源氏も、母にそっくりな藤壺に惹かれ、強い恋心を抱くようになってしまう。

「光る君」と呼ばれ、イケメンに成長した光源氏は、多くの女性と恋愛を重ねつつも、藤壺への思いを断ちきれず、なんと彼女と情を通じてしまうのだ。父の女御なのに!

しかも不倫の結果、藤壺は光源氏の子を身ごもり、男児を出産する。その不貞に桐壺帝はまったく気がつかず、やがてその男児が東宮(皇太子)となり、11歳で即位して冷泉帝となってしまうのだ。

『源氏物語』とは、ビックリするくらいの昼メロ的なドロドロな話なのである。この後もスゴい内容が続いていくが、これ以上、『源氏物語』の内容を書き続けると、ページがなくなるので、とりあえずはこれくらいにして、作者・紫式部の紹介に移っていこう。