腸活のブームで腸内フローラという言葉を耳にしたことがある人もいるでしょう。腸内で活動している「腸内細菌」の分布を指す言葉ですが、腸内環境とヒトの健康状態は密接に関わっています。そこで本稿では、長年腸内細菌を研究し続けている医学博士の内藤裕二氏による著書『70歳からの腸活』(エクスナレッジ)から一部抜粋して、健康な老後を支えてくれる「腸内細菌」の働きについて解説します。
腸内細菌は食べものでつくられる
腸内細菌はヒトの腸内に棲み、ヒトと共生している生き物です。そして腸内細菌は、ヒトが食べたものをエサにして生きています。ですから腸活には何を食べるか? ということが重要になってきます。
腸活に関心のある方なら、腸内細菌のエサは食物繊維であることをご存じでしょう。食物繊維は野菜や穀物に多く含まれています。日本人はおもにお米(穀物)を食べてきた民族なので、食物繊維の多くを穀物から摂ってきた歴史があります。
ところがその大事な穀物の摂取量が、少なくなってきました。とくに近年、炭水化物が肥満の原因といわれ、炭水化物を制限するダイエット法が流行しました。
その影響なのか、40代になるとメタボ健診に引っかからないように、炭水化物を控える人が増えてきたように思います。
しかし炭水化物を減らせば、食物繊維をしっかり摂ることができません。それは腸内細菌にとっては、自分たちのエサが十分入ってこないことになります。その結果、どうなったのかというと、糖尿病になる人が増えてきたのです。
日本の同一地域の同一集団をずっと追いかけている久山町研究という有名な疫学調査があります。九州大学久山町研究室が行っている大規模調査で、福岡県の久山町の住民を60年以上にわたって、栄養指導を行いながら、住民にどんな病気が増えているか、どんな病気で亡くなっているかなどを調べています。
この久山町研究の最近10年くらいのデータを見ると、男性の2人に1人が糖尿病になっていました。生活習慣病の予防のために、バランスのよい食事を指導した結果、今度は糖尿病が増えてきたというわけです。その理由の1つに穀物の摂取量が減ってきたことがあると私は思っています。
とくに現在65歳以上の高齢者と呼ばれる世代は、すでにバランスのよい食事摂取を達成できています。しかし栄養が足りていても、食物繊維を多く含む穀物を積極的に摂らないと、腸内細菌のエサが足りなくなります。ですからメタボ予防のために炭水化物を制限するより、もっと炭水化物を摂ったほうがよいのです。
なお穀物の中でも食物繊維が豊富なのは精製していない全粒穀物です。お米なら玄米、小麦なら全粒粉を使ったパンなどです。
内藤 裕二
京都府立医科大学大学院医学研究科
教授/医学博士