今後の野球界の動向を探っていくうえで、東京ヤクルトスワローズ・村上宗隆選手の存在は欠かせません。2019年に新人賞を獲得、2023年のWBCでは日本代表に選出されるなど、華々しい活躍をしている選手です。掛布雅之氏の著書『常勝タイガースへの道 阪神の伝統と未来』(PHP研究所)より、村上選手の強さの秘訣やバッティングの特徴について解説します。
3割以上の打率を生み出す「四球の積み重ね」
4番の条件として、さらに挙げられるのが四球の多さだ。村上は2022年、118個の四球数がありながら、最多安打争いにも絡んでいた。
落合さんもよく言うことだが、3冠王は、ホームランを打つバッターしか獲れない。3冠王の第1条件は、ホームランバッターである。ホームランを放てば打点はついてくるが、打率と結びつけるのは非常に難しい。
そのホームランと打率を結びつけるものは四球だ。だから私は打率を3割以上残すために割り算をしなかった。打率は割り算で出した数字だ。ホームラン、打点は足し算で積み重ねていく数字である。
打率だけは割り算でも、それを割り算で考えると野球が難しくなってしまう。私はヒットの数の積み重ねと四球の数の積み重ねが、3割以上の数字を残すと考えた。3割以上の打率を残すために何を大切にするかというと、四球の積み重ねである。
王さんには、「ホームランの数を増やすためにはボールの見極めがすごく大切。バットを数多く振って、ホームラン数を増やそうと思ったら失敗する。ホームランを打てるボールが来るまでまず我慢。そのボールが来たときに振る勇気とそのボールを仕留める技術。これがひとつになって初めてホームラン数は増えるんだよ。だからそこにはボールを見る我慢がある。その我慢が四球につながるんだよ。だからボールの見極めを大切にしなさい」と言われたことがある。
今の村上は、まさにそのボールの見極めも十分できるし、そのボールが来たときに振りにいく勇気と仕留める技術がある。
その技術とは手首を返さないこと。
彼独特の面で打つこと。普通、面で打つとそこまでの距離が出ないが、それだけの体の強さというものがある。
掛布雅之
プロ野球解説者・評論家