3割以上の打率を生み出す「四球の積み重ね」

4番の条件として、さらに挙げられるのが四球の多さだ。村上は2022年、118個の四球数がありながら、最多安打争いにも絡んでいた。

落合さんもよく言うことだが、3冠王は、ホームランを打つバッターしか獲れない。3冠王の第1条件は、ホームランバッターである。ホームランを放てば打点はついてくるが、打率と結びつけるのは非常に難しい。

そのホームランと打率を結びつけるものは四球だ。だから私は打率を3割以上残すために割り算をしなかった。打率は割り算で出した数字だ。ホームラン、打点は足し算で積み重ねていく数字である。

打率だけは割り算でも、それを割り算で考えると野球が難しくなってしまう。私はヒットの数の積み重ねと四球の数の積み重ねが、3割以上の数字を残すと考えた。3割以上の打率を残すために何を大切にするかというと、四球の積み重ねである。

王さんには、「ホームランの数を増やすためにはボールの見極めがすごく大切。バットを数多く振って、ホームラン数を増やそうと思ったら失敗する。ホームランを打てるボールが来るまでまず我慢。そのボールが来たときに振る勇気とそのボールを仕留める技術。これがひとつになって初めてホームラン数は増えるんだよ。だからそこにはボールを見る我慢がある。その我慢が四球につながるんだよ。だからボールの見極めを大切にしなさい」と言われたことがある。

今の村上は、まさにそのボールの見極めも十分できるし、そのボールが来たときに振りにいく勇気と仕留める技術がある。

その技術とは手首を返さないこと。

彼独特の面で打つこと。普通、面で打つとそこまでの距離が出ないが、それだけの体の強さというものがある。

掛布雅之

プロ野球解説者・評論家