力強いスイングはどのように繰り出される?

村上の1番の特徴は、面をずっと保っていることだ。それと若いからできることだと思うが、強い下半身を生かし、スタンスが広く踏み込みが大きい。

スタンスが広ければ、右足を踏み込んだときに普通体は回らないが、広いスタンスでも体を回転させる、左足の軸足の強い力が彼の下半身にはあるということだ。広いスタンスの何がよいかというと、広いスタンスになると肩や体が傾かない。

だから、レベルで振れる。あの強い下半身と、あの少し広めのスタンスが素晴らしいレベルスイングを生んでいる。前に崩されたとしても、頭が前の膝よりも絶対に出ない。

あれだけ踏み込みが大きくて強いにもかかわらず、絶対頭が前の膝よりも後ろにあるから右手でバットを放り出せる。そのため、ちょっと崩されてもレフトにホームランを打ち、ライトまで入れられるだけの右足の壁をちゃんとつくれる。あの広めのスタンスは真似できるものではない。

スタンスを広くして打つことは良い点もあるが、強い下半身を持っていないとできない。

「ホームランアーチストの後継者」...驚くべき村上の修正能力

それともうひとつ。彼は新人のころは、打席に入ったときに右肩が少しキャッチャー側に入っていた。55番の背番号がよく見えた。

今は、右肩がピッチャーに向くようになった。そうすることによって、インコースのさばきがよくなる。右肩が入るとインコースの見極めが難しくなる。

その右肩の角度というものも、以前と比較して修正しているように見える。これもやはり184個の三振からできてきていると思う。ホームランを強く打ちたいとなれば、絶対右肩を入れて遠心力を使って打ちたくなる。でもこれではほぼボールが見えない。

1年ごとの自分の野球に対する修正能力が、すごくあるバッターなんだということを強く感じる。

ホームランアーチストという言葉にふさわしいのは田淵さんしかいないと思っていたのだが、村上はホームランアーチストとしての後継者になりうる存在である。しかもそれがレフト、センター、ライトに飛ぶ。球場のすべてにホームランを飛ばせるアーチストは、日本人選手としては彼が初めてではないだろうか。

それと村上の特徴は、バットのヘッドをくり抜いていることにある。私はあまりヘッドをくり抜くのは好まない。

私は、手首は返せなかった。左手の小指下の手首を骨折したので、グリップを太くしたのだ。グリップが太いということは手首が返りづらい。バットのヘッドをくり抜けば、バットの芯はバットの中で少し下がる。多少差し込まれてもさばけるという、つまりインコースに差し込まれても、芯を下にちょっとずらしたバットを使えばそれだけさばけるという、そういう工夫をしているのではないだろうか。

今の彼の意識は、手首を返さずに左中間にホームランというバッティングだ。まずレフト方面に打ち、広角に打球を広げていくのが理想的なバットの角度といえる。

昔のホームランバッターは左バッターであれば、右側45度で勝負していた。右バッターなら左側の45度で勝負する。でも今の村上の場合は90度で勝負をしている。

2022年シーズンには、155本のヒットのうち56本のホームランを打っているのだから、ヒットの3分の1がホームラン。これは王貞治さんが55本の本塁打を打ったときとほぼ一緒だ。現在の試合数は143試合。王さんが55本塁打を放った1964年は140試合だった。王さんは55本のうち49本を右翼に運んだ。一方で村上は、30本以上が中堅から左に運んだホームランである。