現代のホームランアーチストとは誰か?

猛虎打線を振り返り、田淵さんを唯一無二のホームランアーチストと述べた。

では、現代のホームランアーチストとは誰だろうか?

阪神タイガースには、残念ながらホームランアーチストといえる選手はいない。

日本球界を見渡したとき、ヤクルトスワローズの村上宗隆は、ホームランアーチストに近づいていると言えるだろう。2022年シーズンは、NPB歴代2位の56本のホームランを打ち、三冠王に輝いた。村上のことを話すときに思い出すのは、ヤクルトで小川淳司が監督をしていたときのことである。小川監督は習志野高校の2年後輩であり、沖縄のキャンプに視察に行った際は、食事を共にする間柄である。

そのときに小川監督が言っていたことが、とても印象に残っている。

「村上というすごい選手が入ってきたんです。いきなり僕のところに来まして、僕はどういうバッターになったらいいでしょうか? ホームランを打つバッターですか、率を残すバッターですか、どういうタイプのバッターで野球やったらいいんでしょうか? と聞いてきた」というのだ。「そんな選手は過去にはいなかった」と、小川監督は驚いていた。

そのときに小川監督は「いや、まだどういう方向に行くかまったくわからない白紙の状態なんだから、今まで自分がやってきた野球を素直にやることだけ考えてやればいいんじゃないか」というようなことをアドバイスしたらしい。

成長につながった「2年目の三振」

村上は2年目の2019年に36本のホームランを打って新人王を獲得したが、そのときのホームランの数字よりも184個の三振が私には印象に残っている。

彼が3年目、4年目と成長していくためには、この184個の三振をどう捉えて、どう自分のバッティングを変えていくのかに関心があったのだ。

3年目の2020年シーズンはコロナ禍の影響で120試合だったが、三振が115個だった。つまり70個ぐらい減っていた。ゲーム数は少なかったが、打率は3割をクリアし、ホームランは28本だった。

その数字を見たときに、彼自身がホームランを打ち、かつ打率を上げるために何が必要かということを、184個の三振が教えてくれたのではないかと考えた。ボールの見極めがバッティングの中ですごく大切なんだということを教えてくれた2年目の184個という三振の数が、村上の成長につながったと考えている。

4年目の2021年シーズンには巨人の岡本和真と2冠を争ってホームラン王は2人が獲得した。そのときも、三振の数は徐々に減ってきていた。彼のバッティングがどう変わってきたかというと、私は184個の三振を喫したときのバットの角度はアッパースイングだと感じていた。アッパースイングは、点でしかボールをとらえることができない。しかし、レベルスイングであれば、3つぐらいのポイントをつくれる。

彼は、アッパー気味に入るスイングから、ダウンスイングから入ってレベルに入るスイングになっているように見える。彼が打っているホームランは、ベルトよりもやや高いぐらいの、本当にピッチャーの投げミスというボールに対する打ち損じが少ない。

この高さでバットにボールが当たるには、アッパースイングでは難しい。このベルトより少し高い位置にずっとバットのヘッドが乗っているから、多少ポイントが近くなればレフトに飛ぶし、いいポイントであればセンターに飛ぶ。ちょっと前でさばけばライトスタンドに飛ぶ。彼自身の打球方向は、レフトに打とうとか、センターに打とうとか、引っ張ろうとかということではなく、基本的に左中間方向へいいスライスボールを打つようなバットの面をつくっているのだ。

彼は今、手首を返そうというイメージはないと思う。

ボールとバットが当たったら、飛んでいく打球方向へバットのヘッドを放り出すようなイメージだろう。レフトでもセンターでもライトでもその方向にバットを放り出す。

逆に松井秀喜選手はすごく手首が返るバッターだった。だから、松井選手は状態が悪いときはセカンドゴロが増えた。これはボールの外側を叩こうとするから、バットが体から離れていく。