『家事か地獄か 最期まですっくと生き抜く唯一の選択』の著者である稲垣えみ子さんは、さまざまな家電を手放しました。生活必需品だと考えていた洗濯機も捨て、タライ1個での手洗いライフにチェンジ。そこで気づいたという「便利なもの」が持つ別の側面について、著書から一部抜粋してご紹介します。
「便利」には恐ろしい側面がある
つまりはですね、便利なものは確かに大きな可能性を持っている。でもその可能性が大きいほど、本当は自分が必要としていない可能性もたくさん提供してくださるわけで、しかしその可能性がある以上、いつの間にか、なぜか「自分」そっちのけで可能性を満たすことの方を優先していたりするんである。
ってことで、洗濯機を使うほどに「清潔な暮らし」から遠ざかってしまう私のような人間が登場するのである。
洗濯機だけじゃない。
冷蔵庫も電子レンジも手放したら、冷凍も作り置きもできないから日々ごく単純な料理をするしかなくなってしまったが、やってみればそれで十分満足できる自分がいた。でも冷蔵庫や電子レンジがあると、それを使ってあれこれ凝ったたいそうな料理を作ることが当たり前になってしまう。で、いつの間にか、日々凝ったものを作ることのできない自分に敗北感や罪悪感を抱いたりしてしまう。
つまりはですね、便利なものっていうのは「自分」を見えなくするわけですね。本当の自分は案外ちょっとのことで満足できるのに、えらく大掛かりなことをしないと満足できない、幸せが得られないかのような錯覚を日々作り出していくという恐ろしい側面を持っているのであります。
稲垣 えみ子