古代中国の春秋時代は、戦乱の一方で多くの哲学者が生まれた時代でもありました。今回は、春秋時代の哲学者の中でも、「五常」の教えなどで名を馳せ、様々な作品の題材にもなっている孔子の思想について、著書『超要約 哲学書100冊から世界が見える!』(三笠書房)より白取春彦氏が解説します。
『論語』で繰り返された教えとは
『論語』は孔子が書いたものではなく、孔子の死後400年までに弟子たちなど関係者が孔子の言動を全10巻全20編に編纂したもので、その内容は主題ごとに構成されたものでも、論が組み立てられたものでもなく、孔子の言葉が雑然と並べられているだけです。
ただ、くり返し述べられている事柄があり、これはのちの時代の研究から孔子の教えとして「五常」(あるいは五徳)と表現されるようになったもので、「仁・義・礼・智・信」の5つを指します。
「仁」とは万人を思いやって愛すること、「義」とは自分の損得にかかわらずになすべきことをすること、「礼」とは仁の具体的行動、「智」とは道理をよくわきまえた生き方をしていること、「信」とは真実を口にして誠実であること、です。
これらを各人が行なえば社会に模範的人物が生まれ、そのことを通じて社会はよい変化をしていくと孔子は考えていたようです。当時は古代中国の春秋時代で、諸侯が対立抗争をくり返していた動乱期でしたから、社会の変化が望まれていたのでしょう。
孔子の教えの特徴は、自制と否定、世俗性です。ですから、その教えにあっては、何々をしてはいけない、という言い方が多く見られます。たとえば、『聖書』のイエスの教え「人からしてもらいたいとあなたが思うことを人にしなさい」と似ているとしばしばいわれる行動の規範についての表現も、「自分がしてほしくないことを、他人にしない」(貝塚訳)というふうに否定文と自制の形をとっています。
そして、これに続く文には「そうすれば、国につかえていても、恨みを受けることなく、家庭で生活していても恨みを受けることはない」というふうに世俗的な損得の根拠がついています。