ボトムアップ・リサーチに投資する
アルバート・アインシュタインは、「もし私が問題を解くのに1時間与えられ、それに自分の命がかかっているとしたら、私は最初の55分を、適切な問いを決めるために費やすだろう。適切な問いがわかれば、5分とかからず問題を解くことができる」と述べている。
アインシュタインのこの見解は「発見・解決・拡大」起業プロセスにおける、最初のステップがきわめて重要なことを明確にし、なぜここで多くの時間と労力をつぎ込むべきかを伝えている。
この最初のステップを駆け足で通り抜け、製品を市場に出したくなる気持ちはわかる。しかしアインシュタインと同じく、1時間考えるなら、55分は満たされていないニーズを見つけて確認することに費やすべきなのだ。その最初のステップがうまくいけば、次の確固とした価値提案の決定作業はスムーズに進むはずである。
満たされていないニーズを確認できなければ、時間を浪費しているのだ。運に恵まれるよう祈ることだ。
ボトムアップ・リサーチが重要であることの証明
数年前、スタートアップ企業が失敗する理由に関する調査を目にした。1番多い理由は何だと思うだろうか。資金不足、チームの不和、競争、規制の問題…どれもそれらしい理由である。
しかし実際のナンバーワンは「顧客を顧みない」、2番目は「市場のニーズがない」だった。にわかには信じがたい。まずなにより優秀な起業家が顧客を無視するなど考えにくい。顧客の言うことを受け入れられない場合もあるが、無視するなど、起業家として成功するためには悪手ではないのか。
市場のニーズがないことについては、これこそボトムアップ・リサーチの必要性を裏付けるものだ。もし成功の可能性を高めたいのなら、ボトムアップ・リサーチは、これら2つの理由によるスタートアップの失敗を予防する最善の策である。
読者のみなさんには、私の話を聞いて、前もって時間をかけ、満たされていないニーズを発見し確認することが重要であると納得してもらいたい。そのためには解決したい問題を、はっきりさせることから始めよう。そうでなければ、使い道のない解決策をつくるだけになってしまう。
私はこれまで何百もの講義やワークショップを開催してきた経験から、ストーリーはこうした考えを強化し、あなたがたの記憶に刻み込む役に立つと確信している。私の最初のころの課程やワークショップの卒業生たちに再会すると、何年も前に話したボトムアップ・リサーチの話を今でも話しているかと、笑顔で聞いてくる。私がボトムアップ・リサーチを勧めた理由を正確に覚えていなくても、ケーススタディの細部やニュアンスは覚えてくれているのだ。