トップダウン・リサーチだけに頼らないワケ
私が世界中で出会う起業家の大半は、まずトップダウン・リサーチを行なうと言う。自分の選んだ業界の規模や成長スピードについて、誰かがまとめてくれた2次調査をさがす。そして論理的に区分けする方法をさがす。たとえばドッグ・フード、キャット・フード、イグアナの餌、馬の餌、というように。彼らはすでに存在する競争に目を向けている。
この種の調査は必要だが、決して十分ではない。そして起業を志す人がそこでやめてしまうと有害でさえある。“専門家”が行なってまとめてくれた2次調査があれば他に何もいらないと考える。成功する起業家はクリエイティブな推論を行なえるものだが、他人の調査で満足する人にはそれができない。この間違いは高くつく。
トップダウン・リサーチは、私たちの思考を制限する。それは既存の市場における活動を測定するもので、いまあるものを教えてくれるだけだ。あってもおかしくないもの、あるべきものはわからない。公的なソースから発信され、誰もが入手できるため、競争上の優位性をもたらしてはくれない。
もしキャスパー社のルークとニールが、マットレス業界に関するトップダウン・リサーチの統計的な情報だけに頼っていたら、何がわかっただろうか。その世界市場が300億ドル規模であること。毎年2%の成長を続けていること。昔ながらの販売・流通方法を完成させた、リソースの豊富な少数の大手企業が圧倒的に優位であること。これらはすべて、既存のマットレス会社や、マットレスの起業を志す人たちでさえ入手できる情報だ。しかしこれだけでは、睡眠関連やマットレス購入時の満たされていないニーズについて、新たな創造につながる見識を得ることはできなかっただろう。まだ誰も気づいていないアイデアを見つけるには、他のものが必要だったのだ。
サー・ケンジントンズ調味料会社を共同創設し、1億4,000万ドルでユニリーバに売却した、スコット・ノートンを思い出してみよう。もしスコットが、世界のケチャップ市場は41億5,000万ドルで、年間3.8%の成長率を示し、マットレス業界よりもさらに強固な、少数の大企業とハインツというトップ企業に支配されている業界という、トップダウンの統計データのみに頼っていたら、どんな結論を出しただろうか。繰り返すが、ウェブ上で数秒のうちに見つかる、こうした調査だけでは、消費者が直面する問題について、スコットが画期的なアイデアを思いつくことはなかったはずだ。