京都には、世界各国の建築様式が用いられた古い建築物が数多く現存しています。街を歩くだけで、インド起源の装飾物のある市役所や、アールデコの橋、アメリカンゴシック様式の教会などをみながらお散歩できるルートがあるので、みていきましょう。著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版 』(エクスナレッジ)より、円満字洋介氏が解説します。
京都にインド起源の装飾物に覆われた建物がある⁉…京都だけにある「世界各国の建築様式」の建物を巡るおさんぽルート【専門家が解説】
建築家や建築学生が集うサロン
島津の歴史を物語る
一之船入を越えた左手の島津創業記念資料館は、古い写真と今とでファサードが違うことが指摘されている。北館は当初漆喰塗りの土蔵造りだったようだ。今は窓の下に船ひじき、上には法隆寺金堂と同じ人型のかえる股。つまり、書林其中堂と同じような古社寺の手法が散りばめられているのだ。庇下で垂木を2本ずつまとめている吹き寄せ垂木も珍しい。北館1階の桜のステンドグラス下はショーウインドウだったように見える。その柱頭も船ひじきだが純和風ではなく、柱にウイーン分離派風の刻み模様が入っている。2階窓まわりと改造時期が違うのかも知れない。
南棟:1888年・北棟:1894年 設計者不詳
京都市中京区西木屋町通二条下ル西生州町 出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋
京都の建築サロン
旧銅駝高校を右手に見て左折、河原町通りを渡って1本西の通りには、建築業界の駆け込み寺とも呼ばれている建築書の専門店大龍堂書店がある。大きなガラスウインドウと格子戸のシンプルな構成に、町家らしさのエッセンスを感じる。この店は戦前は違う場所にあり、そこで建築系のサロンが開かれたそうだ。その後先代がこの町家を買い取って店舗としていたが、建築家吉村篤一氏が改修した際に店の一角にサロンを復活させた。京都建築フォーラムの建築家や市内の建築学生たちが今も集まってくる。
ヴォーリズと京建具の見事なコラボ
二条通りを西へ、御幸通りを下ると、ヴォーリズ初期の作品の京都御幸町教会だ。ポインテッドアーチの美しいアメリカンゴシックで、プロテスタントの教会にふさわしい質素で端正な作品である。飾りっ気がないかといえばそうではなく、レンガの模様貼りと木製建具が見どころだ。
アーチの両端を長方形の石が受けている。そこから地面までレンガの模様貼りで柱のようなものを表しているのがおわかりだろうか。その柱の内側に玄関アーチがすっぽりおさまっている。上手いデザイン処理だ。窓は円弧をいくつも重ねた複雑なゴシック模様だが、それを木製建具で表現していることに驚く。さらにおもしろいのは下部が引き違い窓になっていること。それが何の違和感もなく納まっている。
純白の瀟洒な教会
再び二条通りを西へ、柳馬場通りを北に向かった京都ハリストス正教会生神女福音聖堂は、東京のニコライ堂と同じギリシャ正教会の教会堂である。窓廻りや玄関ポーチの木製の装飾が美しいが、装飾に大仰なところがなく、小さく控えめであるところが親しみやすさを生み出している。
磨けば光る街角の小作品
二条通りは江戸時代以来の薬種問屋街で、烏丸通りを越えたここに薬の神さまが祀ってあり、そのとなりが二条薬業会館だ。角を丸くした庇がインターナショナルスタイルというか、アールデコというか、両端の丸窓が目に見え、窓割りがどこか和風なのもおもしろい、街角の愛すべき作品だ。きれいにしてあげれば、もっと見栄えがするだろう。
これも学校建築の再利用法
ルートの最後の京都国際マンガミュージアムは、元は龍池小学校だった。いまも地域活動の拠点となっている。玄関まわりの幾何学的なデザイン処理はアールデコだ。玄関左に残っている旗はた棹受けの金物がとてもおもしろい。こうしたディテールを見つけることが建築探偵の楽しさだ。旗を立てるときには、カップ形の受け金物を少し傾ける。
(旧京都市立龍池小学校本館)
1928、1929年 京都市営繕課
京都市中京区両替町通押小路下ル金吹町 出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋
円満字 洋介
建築家



