起こりうる事故状況
自動車事故の中でも、駐車場内での事故・トラブルは一定の割合を占めるといわれています。
これは、狭い駐車場内にて自動車同士の接触が起こったり、死角から出てきた人にぶつかったりすることが多いことに起因しているといえるでしょう。
そのなかでも、駐車場内における物損事故としては、以下の2つのパターンが多いといえます。
①駐車場利用者同士の接触等によって、自動車物損が起こった場合
②車止めや精算機等駐車場設備によって、利用者の自動車物損が起こった場合
非常に典型的ともいえる2つのパターンについて、駐車場を管理しているクリニック側は、どのような責任を負うのか、どのような対応をすべきなのか、それぞれ見ていきましょう。
利用者同士の接触の場合
駐車場の状況や管理に問題がなく、単に利用者同士の接触等によって物損事故が生じた場合、基本的には利用者同士の問題となります。そのため、利用者のうちの加害者が被害者に対して責任を負うにとどまり、駐車場を管理しているクリニック側にて責任を負うことは基本的にはありません。
ただし、後述のように、事故発生の原因が駐車場の管理等の不備であった場合には、駐車場の所有者・管理者であるクリニック側が責任を負う可能性もあります。
駐車場設備に起因する物損の場合
①管理者が負う責任
他方で、駐車場の設備に不備があったことによる物損の場合はどうでしょうか。
このような物損の典型的な例としては、
●車止めの位置が正常な位置からズレていたため、停車時に壁等に衝突した
●自動精算機のシステムエラーに基づいて、ゲートの不具合にて自動車に傷が入った
といったものが考えられます。
このような物損が起こった場合には、駐車場を管理しているクリニック側は、以下の条文を根拠として、責任を負う可能性があります。
【民法717条1項】
「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」
駐車場が「土地の工作物」にあたること、土地の所有者又は管理者が「占有者」にあたることはイメージがしやすいかと思います。
そのうえで、「瑕疵」とは、工作物がその種類に応じて通常備えているべき安全性を欠いていることを指すといわれています。
上記の例でいえば、「車止めは、その位置に従って駐車をすれば、適切な位置に駐車することができる駐車場設備」ということができるでしょうから、「車止めが正常な位置からズレていたことによって正しい位置での停車ができず、その結果として壁等に衝突して車が損傷した」という事実が認定されれば、クリニック側は、車の修理等の損害について責任を負う必要があるといえます※。
※ この例はあくまでも簡易な事例によるものです。実際に駐車場で起こった事故について、クリニック側にて責任を負うか否かは個別的な事案によって異なりますので、お困りの場合は弁護士にご相談ください。
また、駐車場内での物損について厄介な例は、「駐車場内の設備の事故によって、複数の利用者の自動車について物損が起こった場合」です。
先の車止めを例に挙げると、「車止めが正常な位置からズレていたことによって、壁ではなく他人が停車していた自動車に衝突し、自動車2台の物損が発生した」というケースです。この場合は、物損が発生した2台について責任を負う必要があることから、損害額が大きくなる可能性も高まってしまいます。
②物損事故対応の難しさ
管理者にて責任を負う可能性がある場合、物損事故対応の難しさとして挙げられるのは、「損害額が低額であること」です。
管理者の責任の有無を争う場合、弁護士費用は原則各自の負担となり、管理者は自己の費用にて弁護士をつける必要があります。争い方にもよるのですが、数十万~数百万にもなりうる弁護士費用に対し、損害額が「自動車の修理費用数万円から数十万円」という範囲であると、むしろ費用倒れとなる可能性もあります。
そのため、紛争解決コストが紛争の額を上回る可能性があり、紛争対応が難しいことが物損事故の難しさといえるでしょう。
事故防止のための対策
では、このような事故を防ぐための効果的な方法はあるのでしょうか。
よく駐車場内にて、「本駐車場内で起こった事故について、一切の責任を負いません」といった看板を掲示していることがありますが、こちらは実は効果がありません。というのも、先に述べたように、利用者同士の接触事故の場合は、そもそも管理者は責任を負いません。もっとも、駐車場設備に起因する物損については、法律上、管理者が責任を負うことが定められており、看板の掲示によって免責されることはありません。
事故防止のための対策として最も効果的なものは、当然のことではありますが、定期的な駐車場の確認とメンテナンスです。自動精算機のようなシステムエラーについては、防ぎようがない点もありますが、そうでない部分は事前の確認とメンテナンスで防げることが多々あります。
日頃から、
●車止めのような設備が故障していないかのチェック
●通しを悪くしている木や植物のお手入れ
などをしていることにより、仮に物損事故が生じたとしても、管理者の責任が否定されたり、賠償すべき額が抑えられたりとする可能性も高まります。
加えて、店舗型の保険に加入することも実務的な対策として考えられるところです。保険の種類については、様々あると思いますが、損害賠償費用の支払のみならず、弁護士費用特約が付いているものも多く、責任を負った際の補填のみならず紛争対応も可能になれば、管理者としてのリスクも軽減できるといえます。
実は難しい物損事故対応。低額だからと対策を疎かにせず、しっかりと対応することが重要です。
次回記事では、人損事故はどのように対応すべきかについて解説します。
寺田 健郎
弁護士 弁護士法人山村法律事務所