病気や体の不調によって、自身の体の衰えを感じることがありますが、それは「老い」を加速させる体内物質の仕業かもしれません。「体内の余分な糖が蛋白質と結びつく糖化という現象が、老化物質『AGE』を作り出している」と、内科医である奥田昌子氏は言います。奥田氏の著書『「日本人の体質」研究でわかった長寿の習慣』(青春出版社)より、詳しく見ていきましょう。
万病の元「老化」が加速する原因=〈糖化〉を食い止めるために、必ずやっておきたい「健康習慣」とは【医師が解説】
糖化を止めるために有効な方法
糖尿病の人はもちろん、現時点では健康な人も、老化物質AGEの発生を減らすには、どんなことに気をつけたらよいのでしょうか。最近はテレビなどで、肉のこげたところはブドウ糖と蛋白質が結びついてAGEができているから食べないほうがよい、肉は揚げるよりゆでるほうがAGEができにくいと説明することがあるようです。
しかし、食品に含まれるAGEが有害かどうかは研究者によって意見がバラバラで結論が出ていません。すでにできているAGEを食べたところで、消化によって無害な物質に分解されるか、消化できずにそのまま排泄される可能性が高いという主張もあります。
現時点では、体内でのAGEの合成をおさえる夢の特効薬は存在しませんが、アメリカで行われた実験から運動が有効なことがわかっています。この実験では、糖尿病ではない42~64歳の男性を3つのグループに分けて、ひとつのグループには長期にわたるカロリー制限を、もうひとつのグループには運動を指示し、残りのグループには、どちらもせずに過ごしてもらいました。そのうえで、3つのグループのBMI、血糖値、糖化度をグラフにしたのが[図表2]です。BMI(体格指数)は肥満に関する国際尺度、糖化度はAGEの発生の程度を示す尺度です。
すると、カロリー制限グループはBMIが減って血糖値も下がったものの、糖化度は下がりませんでした。これに対して運動グループは、BMIは少ししか低下しなかったのに糖化度が明らかに下がったのです。つまり、糖化を防ぐには運動が必要で、カロリーを制限するだけでは、たとえ血糖値が下がっても糖化は防げない可能性があるということです。
この他に、とくに日本人にとって参考になる研究結果もあります。ここまで見てきたように、日本人を含むアジア人と欧米人は体質が違います。欧米人は脂肪をたくさん摂取しても、比較的安全な皮下脂肪の形でたくわえることができるのに対し、アジア人は内臓脂肪の形でためてしまいます。これが糖尿病をはじめとする生活習慣病を招くので、アジア人は欧米人と同じように脂肪を摂取することはできないわけです。
これを確認するために、白人と、東アジア出身のアジア系アメリカ人に2種類の食事をしてもらう実験がアメリカで行われました。一方は食物繊維が豊富で、炭水化物が現代の和食より多いアジアの伝統的な食事です。もう一方は、食物繊維がその半分もなく、炭水化物も少なくて、その分、脂肪が多い欧米式の食事でした。
すると、アジアの伝統食を食べるとアジア系の人も白人もインスリンの効き目がよくなりました。ところが欧米食を食べると、アジア系の人だけがインスリンの効き目が悪くなったのです。インスリンが効きにくくなれば、それだけ糖尿病の危険が高まります。また、アジア系の人はアジアの伝統食で悪玉コレステロール(LDL)の数値が下がる傾向も見られました。食物繊維と炭水化物をしっかり摂り、脂肪が少ない伝統的な食事が、糖尿病に代表される生活習慣病からアジア人を守ってきた可能性があるということです。
そして、食事の際には、ご飯より先におかずを食べると、ご飯を先に食べたときとくらべて血糖値の上がりかたが小さくなることが知られています。おかずに含まれる栄養素が、ご飯の炭水化物が分解されてできるブドウ糖の吸収をおだやかにしてくれるからです。健康な人はあまり神経質になる必要はありませんが、高血糖を指摘された人には有効です。