魚が日本人の長寿をもたらした

日本の百寿者が好んで食べてきたのは魚です。魚が健康によいといわれるのは、魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)という成分に、中性脂肪を減らして内臓脂肪をつきにくくする作用があるからです。これが動脈硬化の進行を強力におさえます。

EPAとDHAがとくに多いサバ、サワラ、サンマなど背中の青い魚は日本の近海で獲れるため、山間部をのぞけば、百寿者にとっても子どものころからなじみ深い食材だったでしょう。健康のために魚をわざわざ食べたわけではなく、その時代の人にとっては、ご飯の隣に魚と味噌汁があるのが普通だったと思われます。

動脈硬化の進行が認知症の発生とも関係することから、EPAとDHAの摂取は認知症の予防にも有効と考えられています。国立長寿医療研究センターの「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS‐LSA)」によると、60歳以上の高齢者のうち、血液中のDHA濃度が高い人は、DHA濃度が低いグループの11~17パーセントしか認知機能が低下しないことがわかりました。

ぎんさんが亡くなったときに行われた解剖からは、体だけでなく脳の血管にも動脈硬化による変化がほとんどなかったことが明らかになっています。魚を週に5日食べていた日野原先生もずっとお元気でしたね。

ところが、アメリカで実施された調査では、魚を多く食べても認知症の発症率は変わらなかったようです。獲れる魚が違うのに加えて、もしかしたら、ここにも体質の違いが関係しているのかもしれません。

最近はEPAとDHAのサプリメントが販売されていますが、青魚を中心に、週に3回も魚を食べればサプリメントは不要でしょう。

魚は脳出血の予防にも役立ちます。東北と日本海側の県は昔から塩分の摂取量が多く、高血圧により脳の血管が破れる脳出血を起こして死亡する人が目立ちました。ところが、よく調べてみると、同じ東北地方でも新鮮な魚を多く食べ、あまり酒を飲まず、冬も仕事で体を動かす地域は脳出血が少なかったのです。

この調査結果をふまえて、専門家らが脳出血の多い地域を訪れて、積極的に健康指導を行いました。減塩と運動の大切さを説明し、魚や肉に含まれる動物性蛋白質の摂取をすすめるなどして、脳出血が少ない地域の生活習慣を取り入れてもらったところ、脳出血による死亡率が劇的に下がりました。動物性蛋白質には血管を丈夫にして破れにくくするとともに、血圧を下げる働きがあるからです。