「肉を食べれば長生き」は真実か?

では、肉もしっかり摂取するほうがよいのでしょうか? いや、肉には注意が必要です。魚と肉の大きな違いは、肉から蛋白質を摂取しようとすると脂肪が一緒に体に入ることです。

日本で肉の摂取が増えるにつれて平均コレステロール濃度が上がりました。その結果、内臓脂肪がついて動脈硬化が進み、脳の血管が詰まる脳梗塞が増えています。[図表]は一人一日あたりの動物性蛋白質の摂取量、男女別の総コレステロール値、そして脳出血と脳梗塞による死亡率の移り変わりをグラフにしたものです。脳出血と入れ替わるように脳梗塞による死亡が不気味な増加を見せています。

出所:
[図表]肉の摂取は両刃の剣 出所:『「日本人の体質」研究でわかった長寿の習慣』(青春出版社)より抜粋

近年は、脳出血と脳梗塞に代表される脳血管疾患全体で毎年10万人以上が亡くなり、100万人を超える人が引き続き治療を受けています。その半数以上が脳梗塞によるものです。脳血管疾患の問題は、命を取りとめても体の麻痺や言語障害などの後遺症が残りやすく、寝たきりにつながるおそれが高いことです。健康寿命を延ばすには脳血管疾患の予防につとめることが重要です。

動脈硬化が認知症を招くことから、肉の摂取が多い人は認知症の発症率が2倍程度高くなるというデータもあります。ネズミを使った実験では、脂肪分の多い餌を与えたネズミは、そうでないネズミとくらべてアミロイドβが脳に2倍多く蓄積しており、迷路をもちいて記憶力の検査をしたところ、記憶力がいちじるしく低下していることが明らかになりました。

このところ、「肉をよく食べる高齢者は長生きする」という話をよく耳にします。けれども、こういう話の出どころは、たいてい1970~1980年代に行われた調査です。[図表]からわかるように、この時代は動物性蛋白質の摂取が増えたことで脳出血がぐんぐん減っていました。これも日本の平均寿命を押し上げたのは確かです。

しかし、日本人の動物性蛋白質の摂取量はその後も上昇を続け、こんにちでは大部分の人が十分に摂取できています。肉の摂取は両刃の剣です。動物性蛋白質を摂りたければ魚からの摂取を優先してください。


奥田 昌子
医師