高齢者と呼ばれる年齢になっても、働き続けることは珍しくない昨今。「給与収入を得ている間は年金をもらう必要はない」という人も多いようです。そんな人に対し、多くの専門家がおすすめしているのが「年金の繰下げ受給」。最大84%も年金が増えるという、一見するとお得な制度ですが、うまいだけの話はこの世にありません。「年金の繰下げ受給」のデメリットをみていきましょう。
年金、5年で1.5倍!歓喜する70歳夫だったが「年金115万円の受取り損」に絶叫「聞いてないよ!」【年金の繰下げ受給の落とし穴】

年金増額が狙える「年金の繰下げ受給」だが…損するケースも

――年金が最大2倍ほどにもなるのか!

 

年金の繰下げ制度に魅力を感じる人も多いでしょう。しかしうまい話だけではありません。

 

年金の繰下げ制度、年金の受取総額という点でみていくと、長生きしないと結果、損をします。たとえば65歳からの年金月15万円を受け取る場合と、70歳まで年金を繰り下げ42%増額した年金をもらう場合を考えると、額面上の損益分岐点は81歳11ヵ月。さらに手取りベースで考えると84歳を超えます。つまりその前に亡くなることがあれば、総受取額では「65歳から受け取ったほうが得だった」ということになるのです。

 

また老齢厚生年金の繰下げ期間中は「加給年金」がもらえないというデメリットも。「加給年金」は、厚生年金保険の「加入期間が原則20年以上」の場合、「扶養している65歳未満の配偶者」または「18歳未満の子」がいる場合に、上乗せしてもらえるお金。その額、配偶者の場合は22万8,700円。1~2目の子は各22万8,700円、3人目以降は各7万6,200円です。

 

65歳の夫と5歳年下の妻。夫は5年間、年金を繰り下げて「42%増額!」と喜んでいる間に、65歳未満の妻がいることで受け取れる年22万8,700円の加給年金、5年分で115万円ほどが受け取り損ねているということになります。

 

――そんなの聞いてないよ!

 

と叫んだところで後の祭りです。一見するとメリットばかりが目に付く「年金の繰下げ受給」ですが、人によってはデメリットが生じる場合も。具体的な繰り下げ期間などを比較検討したい場合は、年金相談センターなどに相談してみるといいでしょう。

 

[関連資料]

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』

総務省『労働力調査(基本集計) 2022年(令和4年)平均結果』

日本年金機構『年金の繰下げ受給』

日本年金機構『加給年金額と振替加算』