鮨だねとしても人気の高い「ウニ」。ウニの産地といえば「北海道」のイメージが強いですが、「今は特定の産地ではなく、技術が高い加工業者が手がけた箱ウニが人気になった」と、鮨評論界の第一人者であり、著述家の早川光氏は言います。早川氏の著書『新時代の江戸前鮨がわかる本 訪れるべき本当の名店』より、詳しく見ていきましょう。
絶品の稀少ウニ「由良の赤ウニ」
ここ数年、北海道や東北で獲れるキタムラサキウニやエゾバフンウニに加えて、赤ウニを使う鮨屋が増えてきました。
赤ウニというのは暖かい地域に棲む品種で、日本では関西以西でよく獲れます。東京では馴染みが薄いのですが、京都や大阪の鮨屋や和食の店では非常にポピュラーです。北海道のウニのようなクリーミーな食感はありませんが、あっさりした味で口どけもよく美味しいウニです。
ただ漁獲量が少ないので地元で消費されることが多く、日持ちもしないので、ミョウバンを使わない新鮮な赤ウニが東京の市場に入荷することはあまりなかったんですね。それが現地の業者に直接注文する鮨職人が出てきて、広まっていきました。今では豊洲市場にもいろいろなウニが入っています。
産地としては九州が有名で、長崎県の平戸や壱岐、熊本県の天草、佐賀県の唐津、鹿児島の阿久根がよく知られていますが、僕がこれまで食べてきた中で旨いと思ったのは山口県の北浦と兵庫県淡路島の由良。とりわけ由良の赤ウニは絶品です。正直に言って、鮮度と状態のいいものなら味は北海道のブランドウニを超えます。
ウニは食べる餌によって味が変わると書きましたが、由良のウニには他の産地とはまったく違う風味があります。上品な甘みがあり、食べた後も深い余韻が残ります。それはおそらくいろんな種類の海藻を食べているから。実はこの由良のあたりの海は海草類の多様性が高いことで知られていて、研究対象にもなっているそうです。何度食べても不思議なのはライムのような柑橘系の香りがすることで、これは由良のウニだけの特徴です。
漁期は7月中旬から9月下旬までの2ヵ月余りしかなく、もともと稀少なウニなのでコンスタントには入ってきません。しかも品質が安定しているのは8月の間だけ。なのでベストな状態で食べるのは本当に難しいのですが、もしどこかの鮨屋で見かけたら、是非食べてみることをお薦めします。
早川 光
著述家