鮨だねとしても人気の高い「ウニ」。ウニの産地といえば「北海道」のイメージが強いですが、「今は特定の産地ではなく、技術が高い加工業者が手がけた箱ウニが人気になった」と、鮨評論界の第一人者であり、著述家の早川光氏は言います。早川氏の著書『新時代の江戸前鮨がわかる本 訪れるべき本当の名店』より、詳しく見ていきましょう。
4年以上の年月をかけて育てる「ウニ牧場」
長い間、キタムラサキウニは北海道のものというイメージがありましたが、実は東北地方でもまったく負けないものが獲れます。先に挙げた青森のウニもそうですし、岩手や宮城のウニもレベルが高い。その中で特に上質なキタムラサキウニを提供しているのが、岩手県の洋野町の「ウニ牧場」です。
洋野町は外洋に面していて、浅瀬の部分に十数キロくらいの岩盤が広がっている。その岩盤を削って幅3メートルくらいの溝を無数に掘り、そこで天然の昆布を増殖させて、ウニの生息地を作った。これが「ウニ牧場」です。
牧場というと養殖のイメージだと思いますが、実は相当な手間をかけている。まず別の場所で稚ウニを育成して、それからいったん海の沖の方に移し、天然の漁場で2年くらい育ててから牧場に放つんです。そこから昆布だけを餌にして出荷基準のサイズになるまで大きくする。だから合計4年半ぐらいかかるのだとか。
ウニというのは雑食性で何を食べたかによって味が変わる。利尻島、日高、羅臼といった昆布の名産地のウニは、いい昆布を食べているから旨いわけです。そこに着目して、天然の昆布だけを食べさせるというアイデアは凄い。
それでも最初はやはり半信半疑でした。確かに手間と時間はかかっているけど、本当の天然物とは差があるんじゃないかと。ところがそうじゃなかった。昆布以外の餌を食べてないから、すごくピュアな味なんです。旨みの純度が高くて、まったく雑味を感じない。まさに澄みきった味です。
僕がいいと思うのは、漁期を限定していることです。5月から8月の3〜4ヵ月しかウニを獲らないから、常に品質が安定している。そして何より北海道のブランドウニみたいに高くない。東京の鮨屋でも使うところがこれからどんどん増えるのではないでしょうか。