高級な鮨屋なら常に「最高クラスの魚」が出てくるという“思い込み”

10年前は『ミシュランガイド東京』や『東京最高のレストラン』といったガイドブックを見て鮨屋を選ぶというのが普通でした。でも今はツイッターやフェイスブック、インスタグラムなどのSNSや、ネットの口コミサイトを通じて店選びをする人が多数派になっています。

SNSは拡散するスピードが早く、その店がいかに予約が取りにくいか、どんな内容のおまかせを出しているかといった、目を引きやすい話題が中心ですから、ガイドブックの情報よりリアルで真実味があるように見えます。最近は「ガイドブックが褒める店よりSNSで評価される店の方が本物」と解釈している人が多いのではないでしょうか。

ある意味ではそれも正しいと思います。ガイドブックは店の格式や伝統といった目に見えないものを含めて評価する面があり、同じ店がずっとトップ評価のまま動かなかったりするからです。それに比べれば、すべての店を同じ土俵に上げて語るSNSは、公平であると感じます。

でも僕がどうしても気になるのは、SNSの中で、鮨バブルに乗じて値段を上げたおまかせ3万円超の店が、2万円以下の価格帯の店より、押し並べて高い評価を受けていることです。コメントに「最高級食材のオンパレード」などと書かれているのを見て、首を傾げたくなることもあります。

はっきり書きますが、おまかせ3万円超の店なら常に最高クラスの魚ばかりが出てくるというのは思い込みです。もちろん中にはそういう店もありますが、僕の知る限り、それはほんの数軒だけです。

鮨屋の経費は食材の仕入れだけではなく、店の家賃とスタッフの人件費も大きな割合を占めます。つまり家賃相場が高い場所に広い店を構え、サービスを充実させるためスタッフを多く雇っている店は、魚ばかりにお金をかけるというわけにはいきません。

そしてここが大事なポイントですが、最高クラスの魚はお金さえ出せば買えるというものではありません。そもそも最高クラスの魚を扱う業者は限られていて、買うことができるのはその業者が認めた店だけです。特に不漁などの理由で高騰した場合、つまり市場に品物が少ない時は、買えるのは業者との信頼関係が厚い店に限定されます。単純に大金を積んだからといって買うことはできないのです。

中には、マグロとウニだけ高価なものを仕入れて他を抑えるという所もあります。市場で高値をつけるのはマグロとウニだけではなく、シラカワ(シロアマダイ)やホシガレイ、そして水管の部分しか使わない本ミル貝(ミルクイ)なども、握り1貫あたりの値段に換算すればほとんど同じレベルです。その味を知る人には垂涎の高級食材ですが、一般的にはそこまで高価であるとは知られていない。そこでこうした魚をあえて使わないことで全体の値段を調整するというわけです。

もしSNSで鮨屋について語っている人たちが、こうした事情に気づいてくれたら、僕は店の評価やランキングは大きく変わるのではないかと思っています。

2万円前後やそれ以下でも、他の経費を抑え仕入れに充てることで、3万円超の店と同等かそれ以上の魚を使っている店はいくつもあります。

もし高級店ならではのゴージャス感を楽しみたいのではなく、単に「美味しい鮨が食べたい」というのが目的なのであれば、3万円超のバブル店よりこうした鮨屋を選ぶことをお薦めします。