鮨だねとしても人気の高い「ウニ」。ウニの産地といえば「北海道」のイメージが強いですが、「今は特定の産地ではなく、技術が高い加工業者が手がけた箱ウニが人気になった」と、鮨評論界の第一人者であり、著述家の早川光氏は言います。早川氏の著書『新時代の江戸前鮨がわかる本 訪れるべき本当の名店』より、詳しく見ていきましょう。
3大ブランドに見る、高級ウニの進化
ウニもまた、ここ10年の間にすごく変わった鮨だねのひとつです。10年前に全国のウニの中でナンバーワンの評価を受けていたのは北海道の利尻島、礼文島で獲れるキタムラサキウニ、エゾバフンウニでした。どちらも夏に漁期を迎えるウニなので、ウニの旬は夏というイメージが浸透していました。
ところが今は利尻島といった特定の産地ではなく、技術が高い加工業者が手がけた箱ウニが人気です。こうした加工業者は北海道のさまざまな地域から上質なウニを取り寄せ、それをさらに選別して極上のウニを集めた箱ウニを作ります。言うなれば、北海道ウニのオールスター選抜という感じです。
その中でも特に人気を集めているのが、北海道江差町の羽立水産、知内町の東沢水産、そして函館市の橘水産という3つの加工業者。誰が名づけたのか知りませんが“ウニの3大ブランド”と呼ばれています。
この3つの会社に共通しているのが、ミョウバンの使い方の巧さ。ウニの味に影響を与えない程度のミョウバンで、型崩れしない箱ウニを作ります。もともと房が大きく粒がしっかりしたウニを選抜しているので、箱に均一に揃えて盛りつけるとすごく迫力がある。それが「インスタ映え」すると話題になりました。なのでここ数年は3大ブランドを店に置くのがひとつのステイタスとされています。
ミョウバンは硫酸カリウムアルミニウムという物質のこと。細胞膜と結合することで不溶化、つまり溶けにくくするという作用があるので、ウニの型崩れ防止のために使われてきました。ただしこの物質には独特の渋み(苦みと感じる人もいます)があって、使う量が多いとウニの風味を損ねてしまう。そこで加工業者はなんとかミョウバンを減らそうと試行錯誤してきました。
2000年代に入ると無菌塩水にウニをパック詰めにする“塩水ウニ”というのが東京の鮨屋で流行ります。塩水の中にウニを浸すことでミョウバンの量を抑えるという商品で、味はいいのですが、単価が高くなってしまうし、ウニをいちいち塩水から出して水気を切らなくてはならないので使いにくい。そこで加工業者が改めてミョウバンそのものを研究するようになった。それが今に繋がっているのだと思います。
3大ブランドのウニは見映えがいいだけではなく、味も抜群に旨い。ミョウバンの渋みを感じることはないし、クリーミーな味わいと甘みを存分に味わえます。しかも房がしっかりしてるから従来の軍艦巻ではなく、そのまま握ることもできる。本当に素晴らしいんだけど値段も高い。とりわけ“金ラベル”と呼ばれる、豊洲市場で最初にセリにかけられるトップクラスのウニは、ひと箱10万円なんて値段がつくこともあります。これも鮨バブルの影響ですね
ただし“金ラベル”は見た目に重きを置いて選ばれたもの。ウニの房が大きく、張りがあり、粒が立っているものが“金ラベル”の評価を受けるのです。それは加工の技術が高いことの証でもあるので、金ラベルのウニが旨いことは間違いない。でも厳密に言えば、味の順番で選んだものではありません。つまり、金ラベルと同等の味で、それより価格が安いウニも市場にはあるということです。
それで僕が注目しているのが、青森県風間浦村のダイセン駒嶺水産という加工業者です。ここは北海道ではなく青森で獲れるウニを加工してるんですけど、その中に通称“ねずみ”と呼ばれる、色が少しくすんだキタムラサキウニがあるんです。これ、見た目はよくないんだけど、味はめちゃめちゃ旨くて、3大ブランドと比べてもまったく遜色ありません。それなのに値段はそこまで高くない。でもここに書いたら、いきなり高騰してしまうかもしれませんね。