SNSが「鮨バブル」を加熱させる

銀座の高級店から始まった鮨バブルは、あっという間に銀座以外のエリアに広がっていきます。それはSNSの影響によるものです。

2010年代に入ってから急速に浸透したSNSは、江戸前鮨の世界にも大きな影響をもたらします。鮨屋に行った人たちがツイッターやフェイスブックに食べた鮨の写真を載せるようになると、それがガイドブックや雑誌とは違う“リアルな情報”として受け止められるようになります。そしてSNSで話題となった鮨屋が人気になり、予約困難になるという現象まで起きてきます。

中でも大きな影響をもたらしたのがインスタグラムです。

2010年に登場したインスタグラムは、2014年に日本語のアカウントが開設され、2016年に流行して一気に広まります。その特徴は写真情報の豊富さ。ご存じの通りインスタグラムはそれまでのSNS以上にビジュアル重視のメディア。それと鮨バブルの高級食材がぴったりハマったのです。

2017年には「インスタ映え」という言葉がトレンドになり、客が店で撮った箱ウニやマグロ、アワビ、カニなどの“映える”写真をインスタグラムにアップすることが流行します。それは外国人観光客も同じで、英語のインスタグラムを他の外国人が見て興味を持ち、鮨屋を訪ねるということも起こります。この頃の観光客はコンシェルジュを介するのではなく、SNSで見つけた店をネット予約するというのが普通になっています。

そうなると鮨屋もインスタグラムを意識せざるを得なくなります。かつての高級店は、他のお客さんの迷惑になるという配慮から写真撮影お断りという所が多かったのですが、そうしたルールもなし崩しになっていきます。

インスタグラムに写真だけでなく、食べたおまかせの値段を記載する人もいます。値段が高ければインパクトもあるし自慢にもなりますから、やがてその金額を競うような風潮も出てきます。それによって「値段が高い店ほど高級である」という誤ったイメージが生まれ、浸透していくことになります。

訪日外国人が3,000万人を超えた2018年には、SNSの影響力が完全に他のメディアを超えてしまいます。それまでミシュランガイドを参考にしていた観光客もインスタグラムで店選びをするのが当たり前になります。

そうなると、ミシュランの星つきであるとか、格式ある銀座の名店といった従来の肩書きがあまり通用しなくなってきます。外国人も日本人も、ガイドブックで評価されている店より、SNSで話題になっている店に行く方が自慢になるし、それを自分のSNSにアップすれば「いいね!」がもらえるからです。多くの人が注目するのは、予約の取れない店、写真映えするゴージャスな食材を出す店、そして単純に“値段が高い店”です。かくして、おまかせ3万円を超える高額の鮨屋が人気ランキングの上位を占めるという、今の状況が生まれたのです。