進化した日本酒が鮨屋のおつまみを変えた

この10年くらいの間に旨い日本酒が増えたというのは、多くの人が実感していることではないかと思います。その背景にあるのは蔵元の世代交代です。

家業を継いだ若い蔵元がそれまでの“杜氏と経営者は別”という習慣を変え、自分自身で酒を醸すということにチャレンジするようになりました。今の若い蔵元は大学で醸造学を学んだり、醸造研究所で勉強したり、あるいは他の酒蔵の杜氏さんの下で修業したり、知識も経験も豊かな人が多い。その代表的な例が三重県『木屋正酒造』の六代目蔵元です。

乳製品メーカーで働いた経験を生かし、酒造の工程を徹底的に見直し酒質を向上させて、自ら醸す『而今』を入手困難になるほどの人気銘柄にしました。

若い蔵元たちはそれまで単純に甘口、辛口という言葉で区分されていた日本酒に“酸味”“旨み”“余韻”といった新しい概念を加えました。だから彼らが醸した酒はただ旨いというだけではなく、それぞれが明確な個性を持っています。

そうした日本酒の進化、その魅力を知った鮨職人たちは、それぞれの日本酒の個性に合わせたおつまみを模索するようになります。

刺身が中心だったおつまみに煮物が加わり、焼き物が加わり、酒蒸しが加わり、口直しの吸い物や茶碗蒸しなどが加わります。焼き物もただの塩焼きではなく、西京焼きや幽庵焼きなど和食の技法を取り入れるようになっていきます。

僕の記憶では、2010年代になってから鮨屋のおつまみの種類が急速に増えた印象があります。それは日本酒とおつまみの相性を追求する“マッチング”の知識が広まったからではないかと思います。

吟醸酒には淡白な白身魚、純米酒には味の濃い煮物、加熱処理をしていない生酒には生牡蠣といったように、組み合せがより細かく複雑になった。その結果として、おまかせの中のおつまみの比重が高くなりました。

ただし前半のおつまみの量が多いと、後半の握りを出す前にお腹がいっぱいになってしまいます。そこで1品あたりのポーションを小さくして数を増やした。

それが“10種類のおつまみの後に10貫の握りを出す”という、新しいおまかせの形が築されていった理由です。

早川 光
著述家