雇われ院長になる「メリット」
「雇われ院長」のポストは、一般的な病院勤務医や開業医と比べた場合、以下のようなメリットがあります。
①病院勤務医に比べて給与相場がよく、待遇が安定している
病院勤務医と比べた場合、基本給として月10~20万円程度の管理医師の手当が上乗せされるほか、自分の裁量で休診日を設定(長期休暇を含む)できます。また、バックとなる医療法人の規模によりますが、社会保障や福利厚生が充実していることもあげられます。
②融資の連帯保証人・新規設備導入時での出資を強要されない
高額な医療機器の購入の融資や出資は、原則として医療法人側で契約・支払いを行いますので、個人は金銭的な追加負担がなく安心です。
③費用を出さずにマネージメント・経営を学ぶことができる
どの医療法人でも、管理医師に就任する際には、クリニックの現場の円滑な運営を義務としていますが、看護師・医療事務などの指揮・監督、医薬品・検査会社・製薬企業・広告会社などとの交流を施設責任者として行い、かつ、スタッフの採用面接や退職などの人事対応については、自身の責任でなく行うことができます。
クリニックの入出金・売上といった経営面の責任も生じますが、保険診療の原則や算定、報酬制度、自費・公費診療などを知ることは、開業前のよいシミュレーションとなります。
雇われ院長になる「デメリット」
一方で、雇われ院長となることにはそれなりのデメリットもあります。
①医療事故や職場内のパワハラなどの問題の責任が問われる可能性
起こりうるトラブルとして、患者から寄せられる接遇へのクレーム対応、誤診による医療事故の訴訟対応(損害賠償)、職場内のハラスメント対応などがあります。行政上は管理者の立場にあるため、責任が問われることになります。診療報酬不正請求などが発生すれば、個別指導を経て、医師免許停止などの行政処分を受ける場合もあります。
②経営が赤字となった場合の減給の可能性
医療法人のなかには、売上げに左右されず固定給は維持するところだけでなく、「2期連続の赤字で給与減額」といった条件を出しているところもあります。病院勤務医と異なり、経営面での責任をある程度取る必要があるため、売上・患者数によってはインセンティブ支給や昇給もありますが、減少した場合には待遇は保証されず、減給となったケースもあるようです。
③医師会業務などの「時間外勤務」が必要に
医療法人の大半は、所在する地域の医師会に、管理者として入会をする必要があります。とくに内科・小児科では、住民健診・がん検診・予防接種の公費診療が医師会会員を要件とする場合が高く、売上に直結するからです。地域にもよりますが、休日夜間診療所の出動、地域の乳幼児健診の出動、介護保険審査員、学校医などの義務が、ある程度は必要となります。
④退職時の対応
医療法人においては、入職あとのキャリアが「診療所開設」であっても、開業支援をするところもあります。ただ、クリニックの管理医師・医療法人の理事という立場上、退職には3~6ヵ月程度の期間を要します。同時に、勤務する法人が損害を受けないために「院長を委任する診療所の半径2km以内には開院しない」など、診療圏への配慮を義務とする法人も多いため、スタッフ・患者を多数引き抜いての開業はむずかしくなる傾向があります。
まとめ
医療法人のクリニックの「雇われ院長」という仕事は、開業前の鍛錬としてひとつの選択肢になるといえます。ただし、最低でも2~3年の勤務は必要だと認識したほうがよいでしょう。
院長としての行政上の責任はありますが、スタッフの採用と指揮監督、物品や機器の購入については、権限が自由であるところから、経験・実績に応じて権限を徐々に上げていく法人もあります。
このように、雇われ院長には、診療に全力投球すること以外にも、クリニックの管理業務、法人本部はもとより地域や他業者とのコミュニケーションも必要であり、中間管理職としての役割が求められます。こうした管理業務や法人理事としての責任があるため、待遇は病院勤務医よりも相場がいいですが、赤字決算となった場合には、逆に悪化する恐れもあります。
次の開業に備えた退職の出口戦略も含めて、雇われ院長の案件は慎重に決定していく必要もありますが、開業前の鍛錬としては自分の適性を見直す、自身が開設するクリニックのイメージ作りや練習する場所としては検討の価値のある選択肢となるでしょう。
武井 智昭
株式会社TTコンサルティング 医師

