今回の相談者は、以前から付き合いのある地方銀行の提案で3,000万円分の「仕組債」を購入したというSさん。10年前に買った「仕組債」であっさりと利益を得ていたため、「今回も大丈夫だろう」と安易に購入を決断しましたが、なんと900万円もの損失を出してしまいます。Sさんの失敗の原因はどこにあったのでしょうか。本稿では、アルファ・ファイナンシャルプランナーズの代表取締役・田中佑輝氏が、「仕組債」のリスクについて解説します。
退職金3,000万円を受給した60歳男性、“なじみの銀行”推奨の仕組債で〈損失900万円〉…どうすれば失敗を避けられたのか?【FP相談事例】 (※写真はイメージです/PIXTA)

一般的な「債券」よりも高利回りが“期待できる”金融商品「仕組債」とは

仕組債の特徴

仕組債とは、スワップやオプションなど一般的な債券にはない仕組みを併せ持つ債券です。一般的な債券は満期日が決まっており、定期的に決まった金利を得るとともに満期日には元本が返ってくる償還制度になっています。

 

仕組債を使うメリットは、0.5%~12%という一般的な債券よりも高い利息が“期待できる”ことです。相場や商品設計上の条件により、もらえる利息額が変動することもあるのが特徴です。オプション取引を組み合わせて使うことが多く、オプション取引により発生する「プレミアム」という利息収入のようなものを受け取り、投資家と金融機関がこれを分け合う仕組みです。この「プレミアム」により、高い利息収入を実現できるのです。

 

一方、投資家にとってのリスクは大きく、参照する指標(株価、日経平均株価、為替など)が、一定の値以下になった場合は、投資家だけがリスクを被ることになり、金融機関側は「ノーリスク」という仕組みになっています。金融機関が大したリスクを取ることなく収益を得られる仕組債は、地方銀行が十分な説明をせずに販売をしていたことが問題となり、2023年、金融庁が動き出したというニュースもありました。

 

仕組債にはどんなものがあるか?

仕組債は、一般的な債券に金利、為替、株価、企業の信用度などの要素を組み込むことで高い利回りを実現するように設計されます。すべてを解説するとかなりマニアックになってしまうので、ここでは、代表的な2種類の仕組債についてみていきましょう。

 

【リンク債】
リンク債とは、「仕組債とは」の章で解説していたものです。株価指数や株価が一定以下の水準に到達するとマイナスが発生(ノックイン)し、到達しなかった場合は高い利息を得ることができる仕組みです。運用期間中にノックインすると、満期時の評価額で元本が返還されます。
【EB債】
EB債とは、基本的な仕組みはリンク債とほとんど同じです。ただ、ノックインした場合、リンク債なら現金で返還されるところが、EB債では現物(株式)で返還されるという違いがあります。