原告が経済産業省の職員=国の機関であったことが判決につながった
7月11日、最高裁判所である逆転勝訴判決が出て、大きなニュースとなりました。
戸籍上は男性で、女性として生きるトランスジェンダーの経済産業省職員が原告となって、女性トイレの利用を不当に制限されたとして処遇改善を求めた訴訟の上告審で、経済産業省の利用制限を認めない判決が出たのです。
今回の判決は、「他の職員に対する配慮を過度に重視し、原告の不利益を不当に軽視した」として、人事院の判定は「裁量権の逸脱・乱用で違法」としたものです。この件は、原告の方が経済産業省の職員であったこと、つまり、雇用主が人事院という国の機関であったことが最高裁判所での判決につながりました。
最高裁判所への上告が認められるのは、憲法違反があるとき(など)だけに限られているからです。一般の会社の事案であれば、これを最高裁まで争うこと自体が難しかったのではないかと思います。そういった意味では、今回の事案は、画期的な事案となりました。
10年前の外資系企業で実際にあった話
このニュースを見た筆者の友人から、以前の外資系の勤め先で10年ほど前にも似たようなことがあったという話を聞きました。友人いわく、「ある男性社員が、『自分は女として生きていきたく治療も受けてはいるが、性的な好みは別であること』『皆に迷惑をかけるものではないこと』などをプレゼン資料を伴って同僚に説明したそうです。このことが海外の本社にまで上がり、最終的にはその方も女子トイレが使えるようになった」という話を聞きました。
当時は外資系の企業のレベルでようやく企業風土として理解されたのでしょうが、10年という時を経て、ようやく日本のお役所でもまかり通るようになったということです。
「性自認」と「性的指向」は別次元の話
トイレの利用の話は、「性自認」の話ですが、「性自認」と「性的指向」はまったく別次元の話です。「性自認」とは、シンプルに「自分が認識している性=心の性」とです。「性的指向」とは、生まれた時の性や心の性はさておき、「どんな人を恋愛や性の対象にしているか」というベクトルを表わします。この話題を正しく理解するのには、その違いを正しく理解する必要があります。
LGBTQ+については皆さんもご存知の通りかと思いますが、念の為おさらいをしておきましょう。
●Gay(性的指向が男性に向いていること)
●Bisexual(性的指向が男性・女性の両性に向いていること)
●Transgender(性自認と本来の身体的性が一致していないこと)
+Questioning/Queer(これらの枠組みに収まらない性的マイノリティの総称)
「性の多様性」の理解が進む社会になるためには
いずれ自治体レベルでも同様の処遇を求める声は増えてくるかもしれません。また、現在は「男女」という言葉も「性の多様性」といった言葉に見直されるようにもなってきました。
トイレの利用の方法、男女という呼称といったスポット的な問題で、社会全体が変わるものではないのでしょうが、こういったことが少しずつ世の中を変えるきっかけになればいいなと思います。
また、性的マイノリティの方は社会や周囲の理解不足で、心の不調を抱える方や生きづらさを感じる方が多いといいます。日本では心理的サポートを受けられる機関も少なく、社会における差別や意識の解消・改善とともに、メンタルの面でのケアの体制が早急に求められています。