世田谷用賀法律事務所、水谷江利弁護士が話題のニュースを解説する本連載。今回、離婚後の「共同親権」の導入を柱とした民法改正案が閣議決定されたことを受けて、制度導入における問題点を整理していきます。
離婚後の「共同親権」に現実味も、制度導入後の混乱を弁護士が指摘 (※画像はイメージです/PIXTA)

手続法はどうなるのか…全国の家庭裁判所が抱える課題

共同親権とは、現在は父母どちらかにしか認めていない離婚後の親権者について、父母の協議により双方かその一方かを決めること。2024年1月30日に、法制審議会 家族法制部会で取りまとめられた「家族法制の見直しに関する要綱案」は、2月15日に、法務省に答申されていましたが、3月8日、これが、与党により国会に法案として提出されることが閣議決定しました。

 

これについて「改正法は今国会で成立すれば2026年までに共同親権の導入が始まる見込み」「施行前に離婚した夫婦も家裁に親権者変更の申し立てすることで、裁判所が子の利益に基づいて共同親権になる事例も出てくるとみられている」などとして、2026年の導入や、遡及適用について記載する記事が相次いでいます。

 

しかしながら、今のところ法案の詳細は明らかではなく、その信ぴょう性は定かではありません。実際「過去の離婚について親権者変更の申立てをすることで共同親権が認められるようにする」、「共同親権とすべきかどうか協議が整わない事例で、裁判所が共同親権か父母のいずれかを親権者とするかを決める」については、手続法(つまり、家事事件の手続について定めた法律である「家事事件手続法」)側の改正も必要となるものと思います。

  

しかし、これについての議論は明るみになっていません。正直なところ、これまでですら、東京をはじめとする全国の家庭裁判所は、増え続ける「離婚」や「別居」のケースに対し、すでにパンク状態でした。それなのに、新しい制度にはたしてシステムが耐えられるのか……。「家庭裁判所側が、人員2倍くらいの大増員をしないと、おそらく、これからの離婚における共同親権の問題や、まして過去の離婚の親権の問題などには、到底対処できないのでは?」と思うのですが、手当てはなされないままです。

子どもの健やかな成長のためにも、整理が必要

一点、今回の要綱案では、筆者も携わらせていただいている「法務省認定ADR(裁判外紛争解決)」の制度による、裁判を介しない当事者の協議による決定の方法が活用されるべき、とされています。これによれば、裁判所の手を煩わせず、また長い時間を裁判所に手続き待ちにせず、当事者同士で解決をはかることができます。対象となる子供たちは成長の目覚ましい年齢にあることが多く、親同士が争っている間に貴重な時間が失われていくことが、これまでも本当に多くありました。

 

そう考えると、今後共同親権が導入されたのちも、そのための審理に時間をかけるのはよくないと思います。

 

話してわかるケースは「当事者協議」で。調査官調査を要するような重大なケースは「裁判所審理」へ。こういった道順整理が、的確にできることが最重要かと思います。

 

何のための法律か。争いの対象となってしまっている子ども達の、心身の健全な成長のためなはずです。そのことが見失われることのない、法律改正であり、制度改正となっていくことを切に願います。