世界で合法化が進みつつある大麻は、10年以内におよそ64.4兆円の市場規模に成長するとみられています。しかし当然、日本では違法とされており、厳しい取り締まりが行われています。ではそもそもなぜ違法なのでしょうか。大麻規制の理由と、大麻の恐ろしいデメリットについて、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師が解説します。
海外で“合法化”進むが…「大麻」が日本で“違法”なワケ【医師が警告】 (※写真はイメージです/PIXTA)

大麻は世界で「一大ビジネス」となっているが…医師が警告する“大麻の危険性”

海外では合法化されている大麻。その市場規模は、2022年に437億2,000万米ドル(6.3兆円)と評価され、2030年までには4,443億4,000万ドル(64.兆円)に成長すると予測されているなど、一大ビジネスに発展しています(FORTUNE BUSINESS INSIGHTSより)。

※1米ドル145円で換算

 

一方、日本では所持することを禁じられており、厳しい取り締まりが行われています。

 

そんな大麻について、「海外では安全だと認められたから合法化されているのでは?」「タバコより害が少ないらしいし、少ない量なら別に依存症にならないでしょ」などと、日本で違法とされている現状に疑問を抱いている人も少なくありません。

 

インターネットで大麻の有害性を軽視した意見の記載が散見され、大麻の有害性は大したことがないという情報を信じている人も多いのですが、大麻を使用することには大きなデメリットが存在し、国内に大麻が蔓延すると国益を大きく損なうほどのインパクトが予想されます。

 

今回は有害性が少ないと一部でいわている大麻がなぜ、禁止薬物として厳しく取り締られているのかについて解説していきます。

 

大麻にはどのような作用がある?

大麻の中にはΔ-9テトラヒドロカンナビノールという成分が含まれており、この成分が、快楽や幻覚、鎮静、抗不安、鎮痛といった作用を発揮します。

 

快楽の作用があるために「娯楽用」として、鎮静、抗不安、鎮痛の作用があるために「医療用」として使うことができるという主張があります。しかし大麻のデメリットも考えるとこれらに用いることは不適切な薬剤と言わざるを得ません。

 

大麻の医学的なデメリット

大麻の危険性としてまず挙げられるのが「精神依存性」です。

 

2007年にLancetに発表された論文で、大麻には覚醒剤やヘロインといった強力な薬剤にはおよばないものの、精神依存性が確かに存在することが明らかになっています。

 

少ない量であれば依存しないと思っている人もいますが、はじめは少ない量でも徐々に量が増えていき、最終的には大麻によって得られる快楽のために金銭をつぎ込んだり、その金銭を得るために犯罪を犯したりすことになりかねないのです。

 

また大麻にはコカインやヘロイン、メタンフェタミン(覚醒剤)にない作用である「幻覚作用」があります。色彩が違って見えたり音の聞こえ方が変わったり、視覚の変化が起こったりとさまざまな変化があります。

 

音がよく聞こえるような気分になったり、非日常的な感覚を得られたりすることから、これが大麻の娯楽の一部になっているのです。

 

幻覚があるなかで人とコミュニケーションをとることで、トラブルや犯罪につながりますし、車の運転や機械の操作の時に幻覚があると大きな事故につながります。

 

また、大麻には非常に大きなデメリットがあります。それは、若いうちに大麻を吸うことで「頭が悪くなる」ことです。

 

ニュージーランドのデューク大学による研究で1,037人の被験者を0歳から38年間追跡調査)したものがあります。

 

その結果、10代のうちに大麻の使用を開始してその後も続けた人はIQが8ポイント低下しました。たとえばIQが100の人がいたとします。このIQ100というのが平均的なIQです。ここからIQが8下がると92になりますが、このIQ92という数値は、下位30%となります。国内で大麻が蔓延すると、国民のIQが下がってしまうのです。これは個人にとっても国単位でも非常に大きなダメージとなります。

 

これらの理由から、厚生労働省の地方支分部局である地方厚生局(地方厚生支局を含む)に設置されている麻薬取締部の麻薬取締官(俗名:麻薬Gメン、マトリ)が、麻薬や覚醒剤、大麻、向精神薬、あへん、危険ドラッグを含む指定薬物といった薬物の乱用を防止に努めています。

 

具体的には特別司法警察員として、非合法に取引されている薬物の取締りや、医療用の向精神薬等の不正流通防止のための指導・監督などを行っています。しかし、日本における大麻検挙人員は増加しており、また大麻事犯検挙人員のうち「30歳未満が65.0%」と高いことも憂うべき事実です。

 

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[表1]薬事犯検挙人員の推移(人)出所:厚生労働省医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課. 第6回大麻等の薬物対策のあり方検討会

 

また「大麻はタバコより害が少ない」ということを平気でいう人もいますが、そもそもタバコの害と大麻の害はまったく別のベクトルの異なるものであり、タバコと精神に変調をきたす大麻の害を、単純に強弱をつけて論じること自体がナンセンスです。

 

そもそも医師でタバコをすすめる人はほとんどいません。そのようななか、大麻について禁止されている状況から解禁したほうがいいという医師も非常に少数であると思われます。医療用大麻についても、鎮静、鎮痛、抗不安の作用を持つ優れた薬剤が多数あるなか、あえて大麻を医療に用いることのメリットがまったくなく、大麻を推奨する医師も全体で見ればかなり少ないのが現状です。