必須の診療科ながら、「赤字の巣窟」の救急医療
2.救急医療は「採算がとれない」
さらに、救急医療は意外と「採算がとれない」のも問題点のひとつです。
救急医療には、人工呼吸器や透析機器、緊急手術ができる設備など、高額な設備と専門的なスキルが必要となります。その一方、救急医療の需要は予測不可能です。もし患者が来なければ、その分人件費も持ち出しになってしまいます。
さらに、病院では重症患者を受け入れるか・受け入れないかに関わらず、救急医療のために空床を確保しておく必要があります。「救急患者をとりあえず受け入れたが、病院に空床がないため他の病院に転院搬送する」といったことは、患者の命を左右する状態で絶対にできないためです。
ですから、救命救急科はある意味、ベッド稼働率が悪い診療科であるといえます。経営面だけでみると、「赤字の巣窟」です。
このように、救急医療は病院の機能としては必須ながらも、なかなか採算のとりづらい診療科となっています。
救急医の年収は?
このように専門的なスキルと激務を強いられる救急医ですが、年収をみると他の診療科と比較してそこまで高いものではありません。
独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表した『勤務医の就労実態と意識に関する調査※6』によれば、救急医の平均年収は1,215.3万円です。
診療科別にみると10位となっており、年収が1,400万円を超える脳神経外科や産科・婦人科に比べて200万円以上低くなっています。
ただし、これはあくまで一般的な数値であり、具体的な年収は個々の医師の状況によります。年収の割合をみると※7、一番多いのが「年収1,500~2,000万円未満」で25%、次いで「年収1,000~1,500万円未満」で21.9%、3番目が「年収700~1,000万円未満」の18.8%でした。年収500万円未満が6.6%もいることは驚きです。
◆まとめ…お金に変えられないやりがいと大変さの狭間にある救急医療
今回見てきたように、救急医療は現状、「お金にも代えられないやりがい」と「過酷な労働環境」の狭間にあります。もしかすると、この記事を読んで、少し救急医療にネガティブなイメージを持ってしまった方もいらっしゃるかもしれませんが、救急医療はドラマなどで語られる以上に素晴らしい職業です。
救急医療の現場では、人々の生命を救うために、厳しい労働条件に耐え、睡眠不足やストレスと戦い続ける一方、「患者の命を救い、その感謝の言葉を聞く」という、救急医が得られる最大の報酬があります。
それは、どんな金額にも代えがたい価値があります。だからこそ、救急医は、厳しい現実と向き合いながらも、その道を選び続けるのです。
秋谷 進
東京西徳洲会病院小児医療センター
小児科医