年間60万件以上にもおよぶ子どものいじめ(文部科学省令和3年度資料より)。このいじめが原因となって自殺を余儀なくされる児童生徒も少なくありません。さらに、小児期のいじめは大人になってからも恐ろしい影響をおよぼすことが、複数の論文から明らかになっていると、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師はいいます。そこで今回、小児科医の秋谷先生が最新の医学論文から「いじめの傷跡の深刻さ」を検証します。
恐ろしい…「小児期のいじめ」が人生におよぼす残酷すぎる影響【小児科医が警鐘】 (※写真はイメージです/PIXTA)

いじめ対策に重要な「親・家庭」の視点

いじめそのものがなくなることが1番ですが、実際にいじめが起きてしまった場合、被害者の自殺を食い止めるにはどうすればいいのでしょうか。

 

先述の研究では、「いじめ被害へのサポートが十分な場合、自殺の可能性を最小限に抑えることができる」としています。いじめは当事者だけの問題ではなく、「周囲による強固な協力体制」によって、被害を最小限に抑えることができるのです。

 

文部科学省もいじめ問題については非常に重く捉えており、平成25(2013)年から「いじめ防止対策推進法」が策定されています。

 

そのなかでは、学校が講じるべき基本的な施策として以下の4点を重視しています。

 

●道徳教育の充実

●早期発見の措置

●相談体制の整備

●インターネットを通じて行われるいじめに対する対策の推進

 

このように、少しずつではありますが、日本もいじめ被害を最小限に食い止めようという試みがされているようです。

 

しかし、この政策には重要な視点が欠けています。それは私たち「親」です。いじめと、いじめによる自殺を防ぐためには、「家庭」の働きかけがもっとも大切です。

 

子どもはある意味残酷な一面を持っています。「○○がいつも生意気だから、しめてやろうと思った」「見ていてなんとなくムカついたから、むしゃくしゃしていじめた」こうした些細な理由で「いじめ」へと発展します。

 

いじめそのものをなくす、予防するということももちろん重要ですが、それ以上に大切なのが、いじめられたとしても私たち親や社会がそれをきちんと受け止めてあげることです。早急にカバーして「いじめ」を大きな傷跡として残さないことです。

 

転んでケガをしたとしても、傷口を早急に手当てすれば大したケガにはなりません。しかし、放置すると傷口は化膿し大惨事につながることがあります。

 

いじめと自殺も同じです。だからこそ、常にアンテナを張って子どもたちのことを温かく見守ってあげてください。家庭と学校が強固なサポート体制をとることで、日本全体が本当の意味で、「いじめ被害を最小限にして自殺率を減らす社会」へと発展することができるでしょう。

 

 

秋谷 進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医