金利の歴史を知ることは、経済構造の変遷の歴史を知ることにほかなりません。今回は田渕直也氏の著書『教養としての「金利」』から一部を抜粋し、世界的な金利変動の中心地・アメリカの金融政策の歴史を軸に、金利のトレンドについて考えます。
1960年代からの日米の金利推移を比較…40年続いた金利低下トレンドに転換の兆し

現代における金利の推移

 

現代における金利の大まかな変遷についてみておきましょう。

 

図1は、世界の金利に大きな影響を与える存在であるアメリカの金利とともに、日本の金利の推移を示したものです。金利にはいろいろな金利がありますが、ここでは、ともに10年物国債利回りという金利を表示しています。

 

図1.日米10年物国債利回り推移(1962-2022)
               図1.日米10年物国債利回り推移(1962-2022)

 

短期間ではあまり大きな変化が生じない印象が強い金利ですが、長い目でみればその水準がかなり大きく変動していることがわかります。

 

注目すべき点の一つ目は、アメリカの金利が1970年代から1980年代初頭にかけて大きく跳ね上がっているところです。1970年代には、二度のオイルショックを経て、インフレ時代が到来しました。インフレは、一度根付いてしまうとなかなか落ち着かず、むしろどんどん高まってしまうようになりがちです。

 

そして、手の付けられないようなインフレになれば、生活も経済も大変な打撃を被ります。そこで、そんなインフレを退治するために、アメリカでは1979年頃からかつてない規模による金融引締め政策が発動されたのです。

 

当時、アメリカの中央銀行総裁に当たるFRB議長に就任したのがポール・ボルカーという人で、インフレと徹底的に闘う姿から“インフレファイター”と呼ばれました。その激しい金融政策は世界中に影響を与え、世界同時不況と呼ばれる厳しい景気後退を招きましたが、それでもボルカーはインフレ退治に邁進します。

 

その結果、1980年代半ば以降、ようやくインフレが落ち着き、金利もまた落ち着いてくるようになるのです。

 

この時期はアメリカにとっても、そして世界経済にとっても苦しい時代でしたが、このときインフレ退治を行なったおかげで、1990年代にはインフレ圧力が減衰していくディスインフレ時代を迎え、アメリカ経済は順調な成長を遂げるようになります。

 

もうひとつ注目すべき点は、その1980年代半ば以降、短期的な上げ下げはもちろんあるものの、基調的なトレンドとしては金利がずっと下がり続けてきたということです。経済のグローバル化、ディスインフレなど世界経済における経済構造の大きな変化とともに金利が下がり続ける時代が長く続いてきたのです。