中国は「シェアサイクル」大国です。一時期はユーザーによる無造作な放置等の問題が発生し、当局による規制強化もあって、下火になるかに見えました。しかし、業界はその状況を逆手に取り、テクノロジーの力により状況改善に努めました。その結果、中国のシェアサイクルは復活し、さらなる発達を遂げています。それは近い将来、日本にも波及する可能性があります。ジャーナリスト・高口康太氏が解説します。※本記事はテック系メディアサイトiX+からの転載記事です。
日本より数歩先!? 中国の「シェアサイクル」…逆境を逆手に取った「技術革新」の想像を超える凄さ (※写真はイメージです/PIXTA)

公共サービスとしての自転車

さて、このようにしてちょうどいい使い勝手をさぐりあてた中国のシェアサイクル。ユーザー視点では大満足なのですが、事業者視点では大きな問題を抱えています。それはなかなか黒字化ができないこと。

 

自転車1台あたりの費用は約1000元(約2万円)と言われています。北京市の平均では1日3回の利用があります。1日あたりの売上は100円弱とみられます。すると、投入から200日ぐらいで回収できる計算です。多くの地方政府は投入から3年が過ぎた自転車は廃棄処分するように規定を定めていますが、実際には3年も持たずに壊れるものがほとんどとのこと。とはいえ、200日以上持てば黒字化できるのであれば期待はもてそうです。

 

ただ、問題は人通りのない場所に駐輪されたり、駐車禁止区域に駐車されたりした自転車を移動させ、整理・整備する人件費です。北京市では毎日1376人の管理スタッフが投入されているとのこと。このコストが重くのしかかり、シェアサイクル事業者は赤字に苦しんでいます。

 

【画像3】2023年5月、上海市(筆者撮影)

 

電子柵や違反者のブラックリスト制度がさらに普及すれば、管理スタッフの数が減らせる可能性もありますが、しばらくは、この問題は解決しそうにありません。

 

それでも、中国シェアサイクルビジネス全体が潰れることはないとみています。というのも、もはや交通手段として確固たる地位を築いているからであり、民間企業単体での黒字化が難しければ、行政が支援する可能性も十分考えられるからです。実際、日本のシェアサイクルは大半のケースで地方自治体が支援しています。

 

北京市のシェアサイクルは1日の利用回数が約300万回に達しています。地下鉄の利用客数が平均でのべ1200万人前後。シェアサイクルは地下鉄の4分の1にまで達している計算です。複数の交通手段をIT(情報技術)によってシームレスに結びつけて提供する構想をMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)と言いますが、シェアサイクルが定着するなか、MaaSの一環として位置づける動きも広がっています。たとえば習近平総書記肝いりの国家事業である、新都市「雄安新区」では、「鉄道+バス+自転車」で公共交通網を構築する方針を発表しています。

 

未来の交通システムであるMaaSにおいて、自転車も欠かせない存在となりそうです。

 

日本でも、駅等を基点とした比較的短距離の移動手段としてシェアサイクルの活用が見出され始めており、一歩先をゆく中国におけるシェアサイクル技術の発達は、良いモデルケースといえます。

 

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高口康太

ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。

2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。