総務省によると、2022年の高齢化率は29.1%と、超高齢社会の現在。介護需要はいっそう高まる一方、介護業界は深刻な人手不足に悩まされています。そんななか、ITの力を借りて業務を効率化し、人手不足を解消する「介護テック」が注目を集めています。介護業界が直面する複数の課題と、介護テックのメリット・導入事例についてみていきましょう。
超高齢社会ニッポンを救う…「介護テック」の現在地 (※写真はイメージです/PIXTA)

※本記事はテック系メディアサイトiX+からの転載記事です。

介護の領域にもITの力を!いま注目の「介護テック」とは

画像はイメージです/PIXTA
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金融業界の「フィンテック」、農業業界の「アグリテック」をはじめ、ITを活用して既存の産業構造に革新をもたらす「クロステック」が、さまざまなジャンルの産業に広まっています。こうしたなか、介護の領域でも「介護テック(ケアテック)※1」と呼ばれる新しいビジネスモデルが登場し、熱い視線を浴びています。

 

介護テックとは、「介護」と「テクノロジー」を組み合わせた造語。つまり、デジタル技術を導入することで、これまでの介護サービスのあり方や仕組みにイノベーションを起こそうというわけです。

介護業界が直面する、「深刻な人手不足」

画像はイメージです/PIXTA
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介護テックが注目を集める背景には、介護業界が直面する厳しい現状があります。

 

厚生労働省の「平成30年度介護保険事業状況報告※2」によれば、社会の高齢化にともない、2008(平成20)年に467万人だった要介護・要支援認定者数は、10年後の2018(平成30)年には658万人と急増しています。その一方で、こうした要介護・要支援者をケアする受け皿が不足する状況が続いています。

 

厚生労働省は2021(令和3)年、市町村の介護サービス見込み量などに基づき、近い将来必要となる「推定介護職員数」を公表しました※3、※4。これによると、2019年度時点での介護職員数約211万人を基準とした場合、介護需要増加にともない23年度には約22万人、25年度には約32万人、40年度には約69万人もの介護職員が足りなくなる見込みです。

 

こうした状況を踏まえ、政府は、介護職員の給与アップや介護人材の確保・育成、外国人材の受け入れ拡大など、“あの手この手”で介護職員を増やそうと施策を行っていますが、なかなかうまくいっていません。これにはいくつかの原因が考えられますが、最も大きいのは、「待遇に比べ、業務における心身の負担が重すぎる」という点でしょう。

 

心身ともにすり減る介護業務…職員の「離職」が後を絶たない

介護の仕事は、体力がモノをいいます。たとえば、寝たきりの人を介助する場合、その人の身体を起こし、抱きかかえ、移動する際は車椅子に乗せる必要があります。自身で動くことができないとはいえ、70歳以上でも男性は平均で60kg以上体重がありますから、たいへんな重労働です。「腰痛」は介護士の職業病ともいわれ、体力が続かずに離職する人が後を絶ちません。

 

さらに、介護職員は、メンタルへのダメージも受けやすい仕事です。介護施設の入所者は認知症を患っている場合もあり、記憶障害により同じことを何度も繰り返し尋ねたり、被害妄想により介護職員を責めるなどのケースも多くみられます。

 

また身体が不自由なことから、思うように動くことができず、溜まった不満をつい近くにいる介護職員にぶつけてしまうこともよくあります。このように、入所者が介護職員に暴言を吐く、暴力を振るうなどした結果、離職につながってしまうことも非常に多いです。さらには、要介護者の家族からハラスメントを受けるケースもあります。

 

こうした問題を解決するには、「体力があってメンタルも強い人を、高給で採用すればいいのでは?」と安易に考える人もいるでしょう。しかし、一筋縄ではいきません。

 

介護業務は“常時”人手が必要

現在の介護サービスは、人海戦術に頼る典型的な「労働集約型」のサービスです。とりわけ、主な対象が要介護状態の高齢者のため、食事や入浴、排泄など、生活にかかわるほぼすべてのタイミングで人の力が必要です。このように、常時多くの人手を要していることも介護現場が慢性的な人材難である要因のひとつです。

 

しかし、介護事業所も、スタッフをおいそれと増員するわけにはいきません。国の財政がひっ迫していることもあり、事業収入となる「介護報酬」は厳しく抑えられているため、人件費を簡単に増やすことができません。その結果、介護職員は、「給料は上がらないが仕事は増える」というジレンマに陥っています。