逆境を逆手にとった「テクノロジーの駆使」でシェアサイクル復活
一時期は死に体にも思えた中国のシェアサイクル事業がどうして復活できたのでしょうか。
それを支えたのはテクノロジーの活用です。データ活用による投入台数コントロール、電子柵による低コストのステーション敷設、新たな通信技術の普及という3つのポイントから解説します。
まず、第一にデータ活用です。シェアサイクルは利用者のスマートフォン・アプリを通じて移動履歴のデータが収集できます。このデータを活用すればどこでどれほどの需要があるのかを測定することができます。
北京市ではデータをもとに市内のシェアサイクル自転車配置許可数を101万2000台と設定しました。また、気温が下がる12月から3月の冬の期間は、利用者が減少することも踏まえ、75万6500台と減らしています。筆者が感じたような、“ちょうど良い”数をデータに基づいて設定することにしたのです。
中国全体では年に約2000万台の自転車が投入されているとのこと。また、電動自転車の導入も広がり、こちらも年数百万台規模に拡大しています。最盛期の年5000万台という熱狂からだいぶ落ち着きました。とはいえ、それでも凄まじい数ですが。
もう一つ、新たに普及したのが電子柵です。前述したとおり、中国のシェアサイクルは乗り捨て自由な点が魅力でしたが、繁華街など通行量が多い地域で無造作に自転車が放置されると、歩行者や居住者の不満につながります。そこで繁華街では駐車していい場所が定められました。
といっても、ちゃんとした駐輪ステーションではなく、スマートフォン・アプリ上で駐輪OKの場所が示されているだけで、本当にその場所に止めたかどうかは通信技術によって判定します。その方式は中国でも自治体ごとに違うとのこと。
日本のシェアサイクルと同じくBLEビーコン(ブルートゥース・ロー・エナジーという通信規格に対応した発信器)で判定する地域もあれば、GPS(衛星利用測位システム)を使う地域もあります。
北京市ではGPSで判定しているとのことでしたが、驚くほど精度が高く、ほんの10メートルほど指定場所からずれただけで駐輪できないほどでした。返却操作が受け付けられず、課金が継続されます。ちゃんとした駐輪ステーションを作るとなればコストがかさみますが、電子柵ならばきわめて低コストでステーションを設置できる点が魅力です。
多くの地域では問題ある場所に自転車が駐輪されると、運営事業者はただちに察知し、30分以内に対応するように定められています。実際にはこの規定どおりに運用されていないケースも多く放置されている時間が長いこともあるようですが、今後改善されていくのではないでしょうか。
また、違反者には一定期間の利用制限が課されます。地方政府が音頭をとることで、ある事業者で違反駐輪をした場合にはほかの事業者のサービスも利用できなくなる、ブラックリストの共有方式が採られています。
この利用制限制度はすでにいくつかの地域で導入されていますが、ちょっと面白いのが天津市の手法です。1カ月間に3回以上違反すると利用制限リストに乗りますが、初めて掲載された人はスマートフォン・アプリから「今後は気をつけます」という誓約書を送ると再び利用できるようになるのだとか。乗り捨て自由に慣れたユーザーが多いだけに、まずはちょっとゆるめの警告から始めているようです。
また、コスト削減でいうと、NB-IoTの普及も大きな助けとなりました。シェアサイクルでは自転車側にも通信機能が必要となります。中国シェアサイクルでは当初、2G通信が利用されていましたが、2017年以後はNB-IoTという、IoT(モノのインターネット)向け通信規格が採用されています。シェアサイクルへの採用も追い風となり、中国ではNB-IoTが爆発的に普及し、2022年末時点で18億4500万個ものデバイスがLPWA(ロー・パワー・ワイド・ネットワーク、IoT向けの通信規格)に接続していますが、そのほとんどがNB-IoTです。
数がでれば機器の価格も下がり、また普及していくという好循環が生まれます。自転車や車、家電などなど、あらゆるモノがインターネットに接続していくIoTの到来が予見されて久しいわけですが、この分野でも中国が世界をリードしつつあります。