働き方が多様化している時代。自由な働き方を求めて脱サラを決断する人も増えています。そうはいっても、サラリーマンを辞める前に、万が一のこともしっかり考えておかなければ、遺された家族を苦しめてしまうことも……。本記事では、FPオフィスAndAsset代表の前田菜緒CFPが、石原由美さん(仮名・40歳)の事例とともに遺族年金の注意点について解説します。
年収800万円・46歳の脱サラ夫逝去…40歳妻が受け取る「遺族年金」、サラリーマン時代との差額「2,350万円」の悲劇【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

遺族年金の仕組み

遺族厚生年金は、亡くなった本人が厚生年金に加入中であれば妻や子などに支給されます。また、厚生年金に加入中でなくても、過去の厚生年金加入期間と国民年金の加入期間合計が25年以上あれば支給されます。

 

真司さんは46歳で亡くなりましたから、20歳以降、年金に加入していれば厚生年金と国民年金の加入期間合計は26年となり、遺族厚生年金が支給されていたはずでした。しかし、20代のころ、年金加入の手続きをしなかったために5年ほど未納期間があったようです

 

その後、会社員になり19年間厚生年金保険料を納め、さらに独立してからは個人事業主として国民年金保険料を2年納め、合計21年間、年金を納めてきました。しかし、25年という支給要件には年数が足りず、由美さんは遺族厚生年金を1円も受け取れなくなってしまったのです。

 

とはいえ、遺族基礎年金は受け取ることができます。子どもが2人いますから、1人あたり約20万円の「子の加算」が上乗せされ、年間約125万円の遺族基礎年金を子どもが18歳になるまで受け取ることができます。もし、真司さんが会社員のときに亡くなっていれば、会社員時代の平均年収が500万円、厚生年金の加入期間が19年ですから、年間約50万円の遺族厚生年金が由美さんに支給されたと思われます。

 

<由美さんが受け取れる遺族年金>

 

・子が18歳まで⇒年間約125万円

・仮に夫が会社員時代に逝去した場合⇒年間約175万円

 

さらに遺族基礎年金は子が18歳になると支給がストップしますが、厚生年金では、遺族基礎年金がストップされ、以降、妻が65歳になるまで年間約60万円の中高齢寡婦加算という妻手当も受け取ることができます。もし、これらを由美さんが65歳まで受け取ったとすると遺族年金は総額で3,300万円ほどになったと思われますが、実際由美さんが受け取る遺族年金は950万円ほどになるでしょう。

 

<65歳までに由美さんが受け取れる遺族年金の総額>

 

・実際の想定支給額⇒総額950万円

・仮に夫が会社員時代に逝去した場合⇒総額3,300万円

 

 差額:2,350万円

 

しかし、そもそも年金未納期間がなければ、遺族厚生年金も受け取ることができました。由美さんは「厚生年金を19年も払い続けてきたのに……」という気持ちがある一方、「夫が若いときに手続きさえしていれば」と残念な気持ちも持っています。

 

ただ、それでも年間120万円、遺族基礎年金は支給されていますから「未納の痛手は大きいですが、遺族基礎年金だけでも、かなり助かっています。」と言っていました。

自由な働き方を叶える前に…夫婦でとるべき「リスク回避策」

遺族厚生年金は受け取れませんでしたが、真司さんは生命保険に加入していたため収入保障保険の保険金が毎月10万円振り込まれます。また、学資保険にも加入していたため、子どもがそれぞれ18歳のときには学資金が準備されています。「夫が契約してくれて本当によかった」と由美さんは言います。

 

しかし、1番の救いは由美さん自身も正社員として働いていることです。一家の大黒柱を失ってしまいましたが、由美さんが働いているため、家族が貧困になることは避けられました。共働きは大きなリスク回避手段となります。

 

また、もし独立したあとも会社員のときと変わらない公的保障を得たい場合、法人化して厚生年金に加入することも解決手段の1つと言えます。ただし、法人化にはデメリットもありますから、法人化することが事業発展にとってベストな解決策になるかは別問題です。

 

あるいは、厚生年金と国民年金の加入期間が25年以上経ってから独立するという方法もあるでしょう。

 

独立は好きなことを仕事にできる自由で魅力的な働き方です。しかし、それと引き換えに、公的保障が減るリスクもあります。まずは自分の年金加入状況を確認し、その上で、公的保障がどう変わるのか、家族への影響はどうなるのか、リスクにどう対応していくのか、独立前に確認しておくことがリスク回避への一歩となります。

 

 

前田 菜緒

FPオフィスAndAsset

代表