金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(令和4年)」によると、単身世帯の平均貯金額は約494万円、二人以上世帯の平均貯金額は約526万円となっています。そのようななか、小学校教師であるマコトさん(仮名)は、39歳で貯蓄額7,000万円を達成しました。本記事では、マコトさんが実践した投資術についてFPオフィスAndAsset代表の前田菜緒CFPが解説します。
新卒手取り月19万円だった30代小学校教師「貯蓄額・驚異の7,000万円」のワケ…奨学金返済やコロナショックを歯牙にもかけない〈投資術〉をCFPが解説 (※写真はイメージです/PIXTA)

自分で一から資産を作り上げるには?

ふだんファイナンシャルプランナーとしてライフプラン相談を受けていると、若いのにしっかり貯蓄をされている人にお会いする機会があります。相続によって、貯蓄が増えた人もいますが、自分で一から資産を作り上げた人のほうが多数派です。今回は、39歳で7,000万円の貯蓄を作り上げたマコトさんを例に、貯蓄が多い人の共通点とマコトさんの資産形成の実例をお話します。

39歳小学校教師、貯蓄額7,000万円

7,000万円と聞くと「給料が高かったのだろう」と思うかもしれません。確かにマコトさんは、小学校の教師ですから低所得者ではありません。しかし、高所得者ともいえません。その証拠に、現在高所得者は支給対象外となる児童手当を受け取っています。

 

7,000万円を貯められたのは、地道にコツコツ積み立てを続け、堅実な家計管理をしてきた賜物なのです。実は、この「地道にコツコツ、堅実な家計管理」こそが貯蓄を増やす人の最大の共通点です。たとえ高所得者であったとしても7,000万円という大金をすぐに作れるはずはありません。何十年もかけて毎月自分で決めた金額を真面目に積み立て続けたのです。それでは具体的にどのように積み立てたのでしょうか。マコトさんの積み立て実績をみていきます。

 

ボーナスに頼らない家計管理

マコトさんが社会人になったばかりのころ、給料の手取りは約19万円でした。奨学金を返済していたため毎月の支出は約18万円、月々の家計においては、ほとんど余裕はありません。しかし、それでも、必ずその月の収入でやりくりし、ボーナスに頼ることはありませんでした。料理が趣味のマコトさんは、ランチは手作り弁当、友達との飲み会や外食も月2万円までと上限を決め、ほぼ自炊で節約生活を心がけていました。

 

当時のボーナスは年間約60万円、ボーナスから支出するのは帰省費用や予定外の支出で、ささやかな楽しみといえば数千円の高級調味料を購入することくらいでした。そして、そのような節約生活を続けるうちに、使わなかったボーナスが貯蓄として徐々に貯まっていったのです。

 

投資信託を始める…最初の3年は元本割れが続くも、5年後には407万円増

社会人3年目ごろから使わなかったボーナスが100万円を超え、「このまま銀行に置いておいても増えないし」と運用に興味を持ち始めました。情報収集するうちに興味を持ったのが投資信託です。残業も多く仕事が忙しかったマコトさんは、自動で買い付ける積み立てをスタートさせました。毎月の給料から積み立てをするのではなく、貯蓄(使わなかったボーナスが貯まったお金)を積み立てにまわす形で、毎月4万円からはじめました。

 

さらに、年々ボーナスも増えたため、積み立て額を増やし翌年には毎月7万円、さらにその2年後には毎月12万円まで増額させました。このとき、給料の手取りは約25万円、支出は相変わらず18〜19万円ですから、月々の給料から積み立てられる金額はせいぜい5万円程度です。毎月12万円の積み立てができたのは、年間約95万円のボーナス手取りをほぼすべて積み立ていたためです。

 

ちなみに、マコトさんが投資をしていたのはS&P500に連動する投資信託です。2008年にオバマ政権が誕生し、なにかと話題になっていたこと、当時マジックソルトというアメリカの調味料にはまっていたという単純な理由でアメリカに投資をしようと決めました。

 

とはいえ、運用は順調というわけではありません。2009年から運用をスタートさせましたが、当時はリーマンショックから回復の兆しがあったもののギリシアのデフォルト問題が顕在化、さらに2011年、日本では東日本大震災によって大きな被害がもたらされ、世界でもアメリカ国債の格付けが引き下げられました。ユーロ圏も債務危機深刻化により世界同時株安が起こるなど世界的に市場は混乱していました。

 

積み立てをスタートさせて最初の3年ほどは元本割れが続いていたようで、積み立てから2年半経過したころは約240万円の元本に対して評価額は209万円という状況でした。それでも積み立てを続けたのは、仕事が忙しく運用を気にする時間がなかったこともありますが、なにより、長期積み立ての本質を理解したうえで積み立てをスタートさせたため、途中で積み立てをやめようという気持ちにはならなかったと言います。

 

しかし、元本割れ状態を抜け出した4年目ごろからは資産が増えるスピードが非常に早くなりました。なぜなら、価格が落ち込んでいたときに多くの投資信託を購入していたため、それらが一斉に上昇し、資産全体の評価を一気に押し上げたためです。まさにドルコスト平均法が効いたわけです。

 

積み立て開始3年半後では348万円の元本が354万円でしたが、5年後には564万円が971万円に増えていました。