※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
進歩を続ける「クルマ×脳」の研究領域…SFチックな「できたらいいな」が現実になる日 (※写真はイメージです/PIXTA)

実際の加速度変化を「VRゲーム」に連動させる試みも

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

もうひとつ、「クルマと脳」の観点から、バーチャルリアリティ(VR)とクルマとの関係を紹介しましょう。

 

2010年代以降、VRという技術が様々な商品となって登場してきましたが、一般の人が触れることができるのは、主にゲームの分野でしょう。

 

クルマに関係するゲームでも、VRを活用した事例は存在します。

 

ただし、2023年春時点で世界の状況を見る限り、VRゴーグルを付けて走行するタイプのドライビングシュミレーターゲームが、増えている印象はありません。

 

それよりも、乗用車やレーシングカーのシートを模した実際のシートに着座し、目の前に大きな画面を見ながら楽しむ対戦型ゲームが主流のように思えます。

 

私の体験では、VRゴーグルをしながらクルマのゲームをすると、疑似的な三次元の中で

クルマ酔いしてしまうような感じになりました。

 

脳に対する情報の入り方が、これまでのゲームとも違い、また実際のクルマの運転とも違うなど、脳が上手く判断できなくなっているのかもしれません。

 

一方で、実際のクルマを使った、VRゲームという発想もあります。

 

私が体験したのは、世の中がコロナ禍になる少し前、アメリカのネバダ州ラスベガス郊外のサーキットが舞台でした。

 

時刻は午後9時をまわっていて、サーキットコース内の明かり以外、周囲は真っ暗。

 

そこに、アウディのSUVがズラリと並びます。私は後席に座り、VRゴーグルを装着。

手にはゲームのコントローラーを持たされました。

 

しばらくすると、ゲームのスタートです。そこで見えてきた風景はサーキットではなく宇宙空間で、こちらは小型の宇宙戦闘機を操縦しています。

 

そうした状況の中で、敵の宇宙艦船やそこから飛び立ってくる戦闘機を対戦することになったのです。こちらの体感としては、宇宙空間に浮いているような感じで、三次元空間の中でゲームが進行していきました。

 

これは、アウディがディズニー傘下のゲーム関連企業と連携して作成した、VRゲームのデモンストレーションです。

 

実車を運転する人の後部座席に、VRゴーグルを装着したゲーム参加者が座り、サーキット内を走行します、それにより、ゲーム参加者の身体全体にかかる外的な力と加速度変化を、VRゲーム内で連動させる仕組みです。

 

サーキットの外から見ると、クルマがかなりのスピードで走行しているのがわかります。

アウディ関係者は「直線で時速90マイル(144km)くらい出ている」と言います。

 

そこまでの速度を出した状態で、急減速やハイスピードのコーナリングをすることで、

人間は「まるで空中に浮いている」かのような錯覚を起こすことに、とても驚きました。

 

こうしたエンターテインメントを通じて、「クルマと脳」の関係性を別の方向から感じことができた貴重な体験でした。

VRの活用で、開発コストの削減も可能に

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

そのほか、VRは車両開発の分野でも数多く使われています。最初に導入したのはカーデザインの分野です。大手メーカーの、世界各地のデザインスタジオ関係者が、バーチャルの世界でクルマのコンセプトを見ながら議論するという流れです。

 

また、スウェーデンのボルボが公開した事例では、先進運転支援システムの開発で、実車によるリアルな走行と、VRの情報を組み合わせる開発があります。リアルに近いシチュエーションを、より多く、より安く設定することで、実質的に開発コストを削減できると説明します。

 

「クルマと脳」に関係するテック系技術は今後、さらなる進化を続けていくことでしょう。

 

 

桃田 健史

自動車ジャーナリスト、元レーシングドライバー。専門は世界自動車産業。エネルギー、IT、高齢化問題等もカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。