日常生活のなかでテクノロジーの進化を感じる場面が増えました。美容医療の現場でもその進化には目覚ましいものがあることを知っていますか? AIや最新技術の力を借りることで、10年前と比べると、よりリーズナブルな価格で、より効果の高い施術を受けられるようになりました。今回は、美容医療におけるテクノロジーの進化と今後の展望について、美容皮膚科医でレジーナクリニックグループの総院長を務めている木村真聡氏が解説します。※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
「かくれジミ」、シミと肝斑の違い分析まで!10年前とは一変…AI・最新技術を駆使した美容医療のいま【医師が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

美容医療業界でテクノロジーの進歩が目覚ましいワケ 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

近年、日本国内で脱毛やプチ整形などが流行し、エステサロンや美容クリニックの情報をいつでも手軽に得られるようになりました。美容医療がこれほど身近になった理由について、「韓国ブームやSNSの普及の影響が大きい」と木村氏は語ります。

 

「10年前の日本では美容医療の垣根が高く、クリニックにこっそり通う傾向がありました。ところが、韓国ブームやSNSの普及で日本人の美容に対する価値観は大きく変わり、身体の健康維持をするのと同様に、『肌もメンテナンスをしていつまでも若々しく美しくありたい』、『プチ整形程度なら身だしなみのひとつである』いう考えが普及していきました」

 

また、「テクノロジーの進化」によってより安価に治療や施術ができるようになったことも背景にあります。

 

「美容医療で使われる機器は、市場に出始めたタイミングではとても高価なため、治療費も高額になります。しかし、年月を経て複数のメーカーで同様の機器が開発されるようになると、価格も治療費も下がります。さらに、パワーの弱い美容サロン用や家庭用機器が出現することで、より安価なものを選べるようになります」

 

性能のいい機器が出回るメリットは、これだけではありません。

 

「機器の性能がよくなることで、治療時間がより短時間になり、人件費なども抑えられます。たとえば、10年以上前は医療レーザーによる全身脱毛を1回するのに5~6時間かかりましたが、現在は医療機器の進化により1時間半程度で済みます」

 

また、AIを用いた画像診断技術の向上によって、的確な診断ができるようになったそうです。

 

「肉眼では見えない将来的なシミがわかるなど、膨大なデータベースの蓄積と画像技術によって治療の指針を立てやすくなりました。「診断+治療」のワンセットが医療。診断を誤って不適切な治療をすると、症状を悪化させ完治まで時間がかかってしまうことがあります。正確な診断ができれば、治療方針も立てやすくなり、治療の精度も上がります」

 

ただ、美容医療の分野でAIなどのテクノロジーはまだ進化の途中。ヨーロッパやアメリカを中心に技術開発が進み、日本はそれに追随しているのが現状です。

 

「商品化に向けて、国内でも急ピッチで研究が進んでいます。最近では、ホクロが良性のものか悪性のガンなのかAIで画像診断できるようになりました。のびしろは大いにあります」

 

進化の陰で、トラブルも…

一方、美容医療が手軽になったゆえに、トラブルも増えています。特に、高密度の超音波を照射してシワやたるみを改善する「ハイフ」と呼ばれる機器について、相談件数が増えています。2023年3月には、消費者庁消費者安全調査委員会がトラブルについての調査結果を公表しました。

 

「いままでは外科手術のほか、ラジオ波を利用した機器などで皮下組織まで熱を届け、皮膚を引き締めていました。しかし、ハイフを使用することで、皮下組織のさらに下にある筋肉まで熱が届くため、外科手術に近い効果が期待できます。

 

近年は美容サロンにとどまらず、業務用の機器を借りて自分自身で施術する「セルフエステ」を利用する人も増えています。そこで熱のコントロールを誤ってヤケドをしたり、解剖学の知識がない人が施術を行うことで神経に熱を当ててしまい、しびれなどの神経障害を起こしてしまったり……トラブルとなるケースが見受けられます」

 

これは、機器について法律で明確な基準が定められていないこともトラブルの原因のひとつです。

 

「危険を伴う可能性がある機器に関しては、エステサロンや家庭用で使われるものは基本的にパワーが弱くなっています。しかし、安価に製造された機器のなかには粗悪品があり、医療用並みにパワーが出てしまうものがあるのも事実です。

 

また、国内では法整備が追いついていないため、責任を問うのが難しい現状にあります。これまでも、脱毛用レーザーでヤケドトラブルが多発したのち、2001年に医療用とそれ以外で棲みわけがされるようになりました。ハイフについても、今後法整備が進んでいくことを期待します」