ドローン物流が持つ可能性
ドローン物流について、その可能性に期待が寄せられ始めたのは意外と早く、2016年9月には経済産業省 第9回 産業構造審議会 新産業構造部会において、楽天グループが「ドローン物流サービスの実例と今後の展望」というタイトルでプレゼンテーションを行なっています。
この資料では、2005年以降、宅配便の取り扱い個数が増加傾向にあること、一方で都内の約35%は「不在配達(再配達)」となっており労働生産性が低下していること、ドライバーの人手不足が深刻化していることが指摘されています。
この問題は2023年現在でも課題となっており、直近ではトラックドライバーの「2024年問題」(※)も浮上しています。
※働き方改革関連法により、トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることで生じる諸問題。
さらに、地方では過疎化による交通インフラの弱体化などで、高齢者などが思うように日用品を手に入れられない「買い物難民」問題も存在します。離島や僻地でも物資を届けられ、1人のドライバーが複数台のドローンを操れる(人手不足を解消できる)ドローン物流は、まさに日本の物流問題における起死回生の一手になることが期待されています。
事例①過疎地・離島でのドローン物流(長崎・五島市)
ここからは実際に行われた実証実験を紹介します。
まず、2022年12月5日に開始された豊田通商株式会社の100%子会社である、そらいいな株式会社が長崎県五島市で行った実証実験について見ていきます。
五島市は福江島と周辺の小規模な離島で構成される地域で、人口約3.4万人、高齢化率は40.70%(全国平均は28.00%)とかなりの高水準(令和2年国勢調査)。となりの新上五島町ではさらに高齢化が進んでおり(42.70%)、五島市との陸路接続もないことから、地域医療体制やインフラ維持に課題を抱えていました。
そこで同社が行ったのが、ドローンを活用した医薬品や弁当などの食物を配送する実験です。
この実験ではアメリカ・ジップライン社製の固定翼ドローンを導入し、ドローンの下にパラシュート付きの箱をぶら下げて運用しています。事前に定められた場所まで運航し、荷物を投下したあと拠点に帰還するオペレーションを自動化することで、パイロットの負担を軽減しました。
実験の結果、エアクッション入りの箱・緩衝紙で包まれた医薬品は、コンクリートの地面に投下されても品質に問題が生じず、お弁当といった食物はパッケージを工夫することで、中身をばらばらにせずに、問題なく配送できたといいます。
ただ、劇薬については、ドローンによる医薬品配送に関するガイドラインに「実証実験の段階で(中略)配送は避けること」とあり、この実証実験でも実現することができませんでした。しかし、五島内流通品目の約4割は劇薬が占め、医療機関からも「劇薬こそドローンで配送してほしい」との声が多数上がるなどニーズは高くありました。
その後2023年3月16日、厚生労働省と国土交通省は、これまで対象外だった劇薬の配送を認めた「ガイドラインの改正版」を公表。これにともない、4月20日、そらいいな株式会社は、ドローンによる医薬品配送において、劇薬に分類される医薬品の取り扱いを開始すると発表しました。