自分の医療データを活用できるようになれば…
患者さんは従来、簡単な検査結果などをWeb検索にかけることで理解を試みるなどしてきました。筆者は、今日話題になっているチャットボット「ChatGPT」などの裏にある技術を活用することで、患者さんに対してより理解しやすい形でデータを提供できるようになる可能性を感じています。
ただ現状、ChatGPTなどは、自分ではない誰かに判断を委ねたい場合や、専門家からの意見を聞きたいなどのニーズは満たされません。そのため自分の身体の情報を専門家などの他者に検索・確認する権限を与えられることも重要です。
現在そうしたことはできないため、医師が初診の患者様を診察する場合、過去の状況がまったくわからない状態で診察することになり、診断や治療時に重要となる情報が、随分経ってから判明することも大変多いのです。
自分の医療の情報を確認する権限を誰かに渡すようなことができると、どんなメリットがあるでしょうか。まずは病院にかかる際、過去どのような病気にかかっていたのかということについて、自分でゼロから話す必要がなくなります。すると、医師に重要な情報を伝え忘れるということもなくなり、診察時間が短くなったり、不適切な治療を受けるリスクが小さくなったりすると考えられます。
また、日々の生活に活かすという点では、身体に関する情報が集められることで、今後その人がどのような行動をすればよいのか(食生活、運動習慣など)のレコメンドなどができるようになるかもしれません。そういった情報を運動や食生活を記録するアプリケーションと連携させるといったことも可能になります。こうした身体の情報を記録できるサービスを「PHRプラットフォーム」といいます。
ただし、PHRプラットフォームの普及には課題も
PHRプラットフォームの普及にあたって、課題は大きくわけて3つあります。
まずはプライバシー保護の問題です。医療情報をサーバーに集中させて管理する場合、利用者のプライバシー保護を行った上で管理するにはどういう形にすればよいのかは、非常に大きな問題です。利用者のプライバシーを守るためのセキュリティが求められます。現在、解決策としてブロックチェーンなどの利用も検討されています。
次に、たとえば“データ項目などを統一して扱える”などの、決まりごとの必要性です。同じ形でデータを扱えていないと、データどうしの連携が難しくなります。
最後に、医療に関する情報の管理の難しさです。医療情報は、検査データや画像データ以外にも、カルテや手術記録など多岐に渡ります。それらを誰に共有するのか、いつまで共有するのかなどを管理するのは、医師である私の目から見ても、非常に難しいことのように映ります。これを誰にとっても簡単に扱えるような形にしないと、使える人と使えない人で大きな格差が生まれてしまう可能性があります。
以上のように多くの課題もあることから、現在自分の医療データを統合的に扱うことができるPHRプラットフォームはまだ存在していません。しかし、適切な治療を提供していく上で重要性は高く、今後普及していくことが期待されています。
嶋田 裕記
株式会社エムネス ISS(イノベーションソリューションスタジオ)
脳神経外科医