健康を保つにはどうすればよいのか。もし病気にかかったとき、どのように健康を取り戻すか。個々人が上手に健康管理を行う上でカギとなるのが、“個人の医療情報の利活用”です。健康データの管理方法は、今後どのように変わっていくのか。嶋田裕記医師が解説します。※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
患者自身が「医療データ」を管理・閲覧できる時代の到来…今取り組みが進む「PHRプラットフォーム」とは (※写真はイメージです/PIXTA)

自分の健康状態を把握することの難しさ

(※画像はイメージです/PIXTA)
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あなたは健康でしょうか。元気な人、高血圧や糖尿病などで薬を飲んでいる人、何か大きな病気をして、それが治った人、または今まさに病気と闘っている人など色々な方がいらっしゃるかもしれません。それでは、別の質問をしてみましょう。あなたは自分の身体の状況を説明できるでしょうか? 今どんな病気にかかっている、ということだけでなく、例えば、糖尿病だとすれば、「いつから糖尿病と診断されていて、それからどのような治療を受け、血糖値やHbA1c(糖尿病の程度の指標)がどういった推移をしていたのか」などを説明できるでしょうか。恐らく難しいのではないかと思います。

 

これができないことの理由の一つとして、自分の身体から生まれたデータを多くの人が自由に確認することができない、自分の手元にないということが挙げられるでしょう。ただし、もしこういったデータが自由に確認できる状況だったとしても、普段は確認しないという方も多いかもしれません。健康というものは、意識していないときにはまったく気にかけず、失って初めてその重要性に気がつくものなのです。

自分の医療データを「自由に扱える」状態とは?

(※画像はイメージです/PIXTA)
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いかに健康を損なわないようにするのかという点に加え、病気などにかかって健康が失われたときにどう健康を取り戻すのかという点においても、自分の身体に関する情報を自由に扱える状態は非常に重要です。

 

「自由に扱える」というのはどういうことでしょうか。まずは自分の身体に関する情報の“生のデータ”を自分で確認できることです。しかし身体に関する情報は、病気になったときの情報は病院に、健診を受けたときの情報は健診センターなどに散在しており、確認するためには個別にデータを取り寄せる必要があります。また、データを取り寄せるにしても、「何のデータがほしいか」を指定して取り寄せる必要があるでしょう。自由に検索することも難しい状況にあります。仮にすべてのデータを取り寄せるにしても、カルテなどは印刷して出力することになるので、かなりのコストがかかります。このコストは患者本人に請求されるのが普通です。

 

現実的にはカルテの情報は一人の患者でも大量にあり、医療裁判などでないとすべて取り寄せることはないでしょう。例えば、現実的にはほぼ不可能ではありますが、前述のような情報の取り寄せができるようになるだけで、身体に関するデータを自分が健康を保つために活用できるでしょうか。答えは否。なぜなら、自分の医療情報の生のデータを確認しても、理解することが困難だからです。

 

生データだけでなく、医師が記載するカルテを確認すれば、理解できるのでは?と思うかもしれません。これもノーです。現在のカルテ記載は、患者の病状をどのように評価していて、それに対してどのような治療や検査を行うのかを“専門家”に対してわかるような形で行っています。つまり、専門家以外が理解することをまったく想定していません。そのため、そのままの形で渡されても理解できないのです。