親が暴言を繰り返すと、子どもの脳は「変形」する
実は、親の日常的な暴言は、子どもの脳の発達に影響をおよぼします。子どもの脳は暴言の影響で「一部変形する」といわれているのです。なんとも恐ろしい話ですね。
実際、小児期に言葉の暴力を受けたことのある21人の被験者(18歳~25歳)と、同程度の年齢の精神学的に健康な対象者の脳の構造をMRI検査で比較した論文があります。
その論文によると、言葉の暴力を受けたことのある被験者は、脳の中の「左上側頭回(ひだりじょうそくとうかい)」と呼ばれる部分が14.1%も大きくなっていることがわかりました。さらに他の研究でも、言語を司る「ウェルニッケ領域」と前頭領域をつなぐ「弓状筋束」という部分が萎縮してしまうことがわかってきました。
ここからわかることは、暴言によって異常に聴覚の部分が発達し、聴覚の情報が過剰に受け取られてしまっているということ。そして、「前頭前野」という理性的な部分で処理する能力が低下してしまうということです。
したがって、「身体的な暴力さえしなければ虐待にならない」というわけでは決してありません。子どもにストレスを与える言葉もまた、子どもの脳を変形させるほどの力を持つということです。
精神状態や行動にも悪影響…親の暴言が引き起こす「負の連鎖」
さらに、アメリカで行われた976 人の両親を持つ家族と子どもたちを対象とした研究では、「厳しい言葉でのしつけ」と問題行動の関連性が示唆されています。13歳の時点で母親と父親の厳しい言葉によるしつけのレベルが高いほど、13歳から14歳までの思春期の問題行動が増加することがわかったのです。
つまり、しつけのために厳しい言葉を言うとかえって子どもの問題行動を加速させるというわけです。さらに、厳しい言葉でのしつけは子どもの抑うつ症状を悪化させることも同じ論文から明らかになっています。また、(ある意味当然ですが)子どもが思春期に問題行動を起こすと、親の厳しい言葉によるしつけも増えてくることも報告されています。
ここからわかることは、厳しいしつけを中心に子どもをコントロールしようとすると、かえって抑うつ症状や問題行動を起こしやすくし、それがかえって厳しいしつけを助長する……といった「負の連鎖」になりやすいということです。
この負の連鎖から脱却するためには、親の子どもに対する接し方を見直す必要があります。
厳しい言葉は“誰”のため?
どの親も、子どもに問題行動を起こしてほしいと思って厳しい言葉を投げかけたりはしません。子どもが今後社会に困らないようにするため、正しい道を歩んでほしい……その愛情の裏返しですよね。
しかし、もしかしたら「自分が子どもに迷惑をかけられたから」「周りに迷惑をかけて自分が恥ずかしい思いをしたから」など、“自分”が理由で子どもについつい暴言をかけてしまうケースもあるかもしれません。
そんなときは、「厳しい言葉」を使う前に一度目をつぶって深呼吸してみましょう。誰のために「厳しい言葉」を使うのか。子どものためなのか、子どものため…と言いつつ、本当は自分のためなのか。
冷静になって、一度よく考えてみましょう。すると、もう少し健全な言葉の投げかけ方が見つかるかもしれません。
秋谷 進
東京西徳洲会病院小児医療センター
小児科医