乳がん治療から4年後に全身転移…保険金請求も、まさかの「支払対象外」
東京都江戸川区在住、フリーランスでライターとして働く40歳女性の遠山美穂さん(仮名)。遠山さんは約4年前、早期の乳がんが見つかり手術を受けました。幸いそのときにはがんの転移は確認されず、術後一定期間、薬の治療を行い、それからは半年に1回経過観察の検査を受けて、特に異常はなく過ごしていました。
ところが4ヵ月前の検査の際、全身へのがんの転移が発覚しました。全身への転移のため、手術を行うことはできず抗がん剤治療という薬による治療が主治医から提案され、遠山さんも同意し、本日4回目の治療を受けたところです。ひと月に1回程度病院へ通い、日帰りで主治医の診察と抗がん剤治療を受ける。4回を1セットとし、経過を見ながらそれを継続していきます。
この先も治療が継続する予定ですが、ひとまずこのあたりで1回がん保険の請求をしようと、自宅へ戻ったあと保険会社のコールセンターに電話したのですが、そこでまさかの回答が……。
「今回の治療に関してはお支払いの対象外です」
昭和のがん保険は「入院治療」が前提
遠山さんはがんの転移が見つかり抗がん剤治療を受けてきましたが、その治療は健康保険が適用となる標準治療といわれるもので、決して特別な治療を受けたわけではありません。ところが遠山さんのがん保険からは、支払い対象外という回答。どうしてこのようなことになったのでしょうか。
遠山さんが加入しているがん保険ですが、実は遠山さんが子供のころに父親が付き合いのある代理店で加入してくれていたもので、就職後契約名義を遠山さん本人に変更してこれまで継続してきたものでした。加入した時期は、いまから約30年前のことになります。
その保障内容は以下のとおりです。
・がんで入院したら1日あたり1万円
・がんで手術を受けたら1回あたり20万円
・がんで通院したら1回あたり5千円(14日以上の入院後の通院に限る)
通院に対する保障がありますが、括弧書きで「14日以上の入院後の通院に限る」という記載があります。今回遠山さんはまったく入院することはなく、すべて通院で治療は完結しているため、加入しているがん保険では支払対象外という結果になってしまいました。
がんは「入院治療」ではなく「通院治療」の時代に
遠山さんは、初めてがんが見つかった際には
・入院8日間で8万円
・がんの手術で20万円
合計で128万円を受け取りました。入院費用や通院費用すべて払ってもお釣りがきたため、父親ががん保険に入ってくれたこと、またそれを自分で継続してきたことをよかったと感じました。支払ったがん治療費よりも大きな金額が残ったため、快気祝いに家族で旅行も楽しみました。
そういったこともあり、自分がとてもいいがん保険に入っているという安心感も生まれ、内容を特に精査することもなく現在に至り、今回の支払対象外という結果に愕然としました。なぜ遠山さんのがん保険には、通院治療の保障に対し「14日以上の入院後の通院に限る」といった条件がついていたのでしょうか。
実は遠山さんが加入しているがん保険が発売された時代、いまから約30年前ですが、がん治療は入院を伴って行うことが一般的でした。ですから、その時代に発売されたがん保険も入院治療に対してお金を受け取れるタイプが主流でした。
ところがそれからがん治療の実態が大きく変化し、通院によるがん治療が増えてきています。そのため最近新たに発売されているがん保険は、入院・通院を問わず、がん治療を受けたらお金を受け取れるといったタイプがスタンダードになっています。
終身保障は「一生涯の安心」という思い込み
遠山さんががんの診断を受ける前、がん保険に入っていること自体に安心感を持ち、見直しが必要かどうかといった疑問がわかなかったことの要因のひとつに、父親からいわれた一言があります。それは「終身保障のがん保険だから生きている限り安心」ということです。
がん保険には
・生きている限り保障が継続する「終身保障タイプ」
の2種類があります。遠山さんが加入しているがん保険は後者で、パンフレットにも「一生涯の安心」といったキャッチフレーズが記載されています。生きている限り安心と聞いた遠山さんは、「このがん保険があれば、がんになっても一生お金の心配は不要」という思いになった可能性があります。
ただし、終身保障のがん保険の意味は正確に捉えておく必要があります。それは、終身保障は一生涯の安心ではなく一生涯契約が継続するという意味であるということです。