街中でよく見かける「救急車」。実は、この救急車が現場に到着するまでの時間が年々延びていることをご存知でしょうか。新型コロナの流行や日本社会の高齢化も一因のようですが、それ以上に到着が遅れる原因となっているのが救急車の「不適切利用」だと、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師はいいます。今回は、この「救急車の不適切利用」の実態と適切に利用するための対策についてみていきましょう。
「眠れないから話し相手になって」…呆れた“不要不急の119”裏で消える命の不条理【医師が警鐘】 (※写真はイメージです/PIXTA)

衝撃…昨年呼ばれた救急車の「約半数」が不適切利用の可能性

上記の具体例をみて、「そんなことで呼ぶ人がたくさんいるの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

 

しかし、軽症例での救急搬送が非常に多いことがわかるデータがあります。総務省消防庁の「令和4年版救急・救助の現況」を見てみると、全国で597万8,008人が1年間に救急車で搬送されていますが、なんとそのうちの48.0%は軽症例と判定されているのです。また、救急車の出動数も年々増加しています。

 

さらに、救急車が現場に到着するまでの所要時間は、2011年では8.2分であったところ、2021年には9.4分とはじめて9分を超えました。これは一見わずかな差のように思えますが、重症患者、特に心停止患者では「1分の差」が命を左右します。そのため、この1分は「命の壁」ともいえる時間差です。

 

また、救急患者を病院に収容するまでの時間は2011年が38.1分、2021年に42.8分となっています。重症患者であれば救命率に非常に大きな影響を与える時間差が出てしまっているのです。

救急車を呼ぶ前に…知っておきたい「2つ」のツール

救急車の不適切利用がよくないとはいっても、前述のように自分の子どもが急に体調が悪くなった場合など、冷静な判断は難しいでしょう。したがって、事前にどのようにして救急要請の判断をするかを知り、シミュレーションしておく必要があります。

 

1.「こどもの救急」

まず知っておきたいツールが、Webサイト「こどもの救急」(http://kodomo-qq.jp/)です。これは厚生労働省研究班と日本小児科学会により監修されているもので、「発熱」や「けいれん・ふるえ」などページ左の欄から気になる症状を選び、どんな症状があるかをチェックボックス形式で選ぶことで、病院を受診すべきか、また救急車を呼ぶべきか回答してくれるようになっています。

 

このサイトを活用することで、救急車の不適切利用を防ぐだけでなく、「必要なのに病院に行かずに治療のタイミングを逃す」といった事態を防ぐこともできます。

 

2.「小児救急電話相談(#8000)」

また、「小児救急電話相談事業」も有用な手段です。こちらは、小児科受診対象となる15歳未満の子どもの保護者が、子どもの急病にどのように対応すべきか相談することができる電話窓口です。小児科医や看護師が対応してくれ、適切なアドバイスをもらうことができます。

 

スマートフォンや固定電話で「#8000」をプッシュすることで、いまいる都道府県の相談窓口に自動で転送されます。ぜひこの番号を覚えておいてください。

 

■まとめ

今回は、救急車の不適切利用について解説しました。自身やご家族が急に状態が悪くなるとつい焦ってしまいますが、そのようなときに冷静な判断を下すための支援ツールがあります。

 

ぜひこれらのツールの存在を覚えておき、迅速に適切な判断を行えるようにシミュレーションしておきましょう。

 

 

秋谷 進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医