「ジェネレーティブAI」の誕生…「フェイク」に注意が必要となる
一方で、AIの進化は負の側面も存在します。2022年の台風15号は記録的な豪雨をもたらし、台風の進路となった静岡県では各地で大規模な水害が発生しました。そのようななか、ドローンで撮影された静岡の洪水の様子として3枚の画像がツイッターに投稿され、その投稿は瞬く間に拡散されました。その後、投稿者はこの3枚の画像は”フェイク”だったと認め、謝罪のコメントを投稿しています。投稿者は、これらの画像は画像生成AI「Stable Diffusion」を使って作成したものだと明かしました。
また、2022年、米コロラド州で開催された美術コンテストで1位に選ばれた作品が物議を醸しました。なぜならその作品は、いくつかのキーワードを入力して指示どおりに絵を描くAI「Midjourney」により作成されたものだったからです。
静岡の水害のフェイク画像も、米国の美術コンテストの絵画も、一見しただけではもはや人が撮影もしくは制作したものと区別がつかないレベルになっています。画像だけではなく、すでに1本の映画をつくるAIや、過去のクラシック音楽を学習してクラシックの巨匠たちと肩を並べるほどのまったく新しいクラシック音楽を生成するAI、さらには純文学でもミステリーでもあらゆるジャンルの小説を書くAIなど、さまざまなタイプのコンテンツ生成型AI(ジェネレーティブAI)が誕生しています。
こうしたジェネレーティブAIはよい側面もある一方で、「フェイク」も簡単に作成できてしまうため、悪意のあるコンテンツがSNSを通じてインターネット上に氾濫してしまう恐れもあります。防災の観点では、それを見分ける手間が増え、いざというときに本当に救助を求めている市民の声が届かなくなってしまう懸念も見過ごせません。
AIによる予測と未来の防災
防災領域でのAIの活用は徐々に進んできています。東北大学発のベンチャーRTi-castは、地震が発生した際に、瞬時に津波の被害を予測しシミュレーションする技術を開発しています。スーパーコンピュータを使い、地震発生から20分足らずで津波による被害範囲を推定できるため、住民への避難の呼びかけや、自治体における災害対応の効率化にとって大変有効な取り組みです。
気象情報を手掛けるウェザーニューズは台風が通過する地域の停電リスクを予測するサービスを提供しています。2019年に関東を襲った台風15号では、千葉県の広範囲で停電の被害が発生しました。同社は過去の停電や予想される風速などのデータをもとにAIで停電範囲を予測し、一般市民の事前対策や企業のBCP(事業継続計画)対応への活用を呼びかけています。
さらには大雨による街中の浸水範囲をAIでリアルタイムに推定する技術や、大雪により大規模に車が立ち往生してしまう「スタック」被害の予兆検知技術を開発し、サービスを提供している企業もあります。ゲリラ豪雨や線状降水帯など近年大雨による被害が全国で頻発していますが、「どの地域が、どの程度浸水するか」をいち早く予測することで、市民の避難や交通網などへの被害を未然に防ぐことができるほか、浸水範囲を特定することで保険金の支払いにも活用できます。
冬場の大雪による交通被害も毎年のように発生しており、物流やサプライチェーンに大きな影響をもたらしているのが現状です。AIによる予測技術はこうした分野で力を発揮します。
東日本大震災から12年、そのあいだのAIを始めとした技術の発展は目覚ましいものがあります。今後、政府が進める都市OS(さまざまな都市のデータ基盤)の取り組みなどが進むと、これらのデータを活用するためにAIはますます欠かせない技術となるでしょう。どんな技術にも光と影の部分が存在します。しかし、防災の領域においては、AIを活用した「データ駆動型」の社会の実現により、多くの生命や財産を助けることができると信じています。
村上 建治郎(むらかみ けんじろう)
株式会社 Spectee
代表取締役