「人間の仕事は、いずれAI(人工知能)に奪われていく」そのような声が叫ばれ始めてから、私たち人間しか成し得ない能力や役割が見直され、しばしば議論されるようになりました。AIと対峙するのではなく、相互補完し、新たな価値を生み出す未来について、専門家が詳しく解説します。※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
AIに「仕事を奪われる」ではなく、AIが「新たな仕事を生み出す」時代へ (※写真はイメージです/PIXTA)

端的に言えば、今後は知的労働がより高度化していくことが予測されます。

 

例えば、一昔前には「AIがもっと進化すれば、医師は不要になるだろう」という言説がまことしやかに囁かれていました。確かに、MRI画像の読影であれば、医師よりもビッグデータを解析した画像診断AIのほうが精度の高い診断をくだせるでしょう。

 

患者のその日の顔色や音声のトーンも、生体データを解析すれば、より正確に読み取れるようになるはずです。眼球の動きをトラッキングできるメガネ型端末が実用化されれば、脳の機能のはたらきやアルツハイマー症候群の兆候などもつかめるようになるでしょう。診断や医療行為のパーツが今後一つひとつ自動化されていくことは見込まれています。

 

けれども、それらを使いこなし、統合的に判断する医療従事者の役割は、やはり必要とされます。人間同士だからこそ与えられる安心感やコミュニケーションの価値は失われることなく、AI診断は普及し、AIの診断結果を使いこなせる医療従事者の需要がより高まっていくと考えられます。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

今後はAIを使いこなせる人材が必要に

エンタテインメントの世界も同様です。設定を「ChatGPT」に入力してあらすじを考えてもらい、画像生成AIに描かせた絵と組み合わせたマンガ作品がすでにインターネット上ではいくつか出回っています。

 

マンガはいわばシナリオと作画の総合芸術ですが、これまではシナリオと作画の両方、もしくはどちらかの才能がなければ成り立たない職業でした。ところが、AIを使えばこれらの障壁が一気に低くなることが証明されたのです。

 

それでも、物語の源泉となるお題は人間が出すことは変わりませんから、AIをツールとして活用できる創作者が今後は続々と現れていくのではないでしょうか。少なくとも、創作という行為の裾野が格段に広がったことは間違いありません。

 

将棋の世界においては、すでに多くの棋士がAIを駆使して対局を分析しています。史上最年少で五冠を達成した棋士・藤井聡太氏は、AIソフトを使った研究を自らの棋力に取り入れています。周知のとおり華々しい活躍を見せています。